ハリー・ポッターと炎のゴブレット(第35章前半)

ハリーは地面にたたきつけられるのを感じた。ショックと疲労で動けなかった。
人が集まってきて、ハリーは自分が迷路の入り口に戻ってきたことを知る。
するとこのポートキーは、もともと、優勝者がタッチしたときに迷路の入り口にテレポートするようにセットされていたのだろうか。それなら、観客に結果がすぐ見える。

ンブルドアを見たとたん、ハリーは言う。
「あの人が戻ってきました」「戻ったんです。ヴォルデモートが」
いちばん肝心のことをいち早くダンブルドアに伝えたわけだ。ハリーの場合、判断力というより直感によって、これをまず報告するべきだと思ったのだろう。

セドリックが死んでいることにファッジが気づき、大騒ぎになる。
この騒ぎの隙をついて、ムーディがハリーを現場から連れ出し、自室に連れていった。その移動の間にもムーディは今日のできごとについて質問を繰り返し、ハリーは答える。
「ヴォルデモートが戻ったのか? ハリー、それは確かか?」と聞き返したところまでは、ムーディとしての芝居が続いていたのだと思われる。しかし、「あの人は死喰い人をどのように扱ったかね?」とハリーに聞いたあたりから、少しずつ芝居から抜け出していたのだろう。彼の目的は達せられたのだから。しかしまだハリーは気づかない。

「僕の名前をゴブレットに入れたのは、カルカロフじゃないの?」
「違う。あいつではない。わしがやったのだ」
ハリーには信じられない。ハリーにとって彼は、あくまでアラスター・ムーディなのだ。
「ワールドカップで仮面をかぶってはしゃぐ勇気はあっても、この俺が空に打ち上げた闇の印を見て逃げ出した、不実な、役にも立たない蛆虫ども」
このムーディのせりふは、ワールドカップの事件の真相も、ドラコへの態度の理由も一気に明らかにしてくれる。ドラコが白いイタチに変えられたことを、ロンをはじめハリーもハーマイオニーもハグリッドも「いい気味だ」と喜んでいた。しかしそれは、真の死喰い人を自認するクラウチJr. が、保身を諮ったルシウス・マルフォイを憎むあまりのことで、つまり死喰い人どうしのいさかいの反映に過ぎなかった。

難しい使命に成功した気のゆるみからか、ムーディは次々と真相をハリーに語る。
別な学校の名前を使って、自分がゴブレットにハリーの名前を入れた。ハグリッドをそそのかして、ハリーにドラゴンを見せた。ほうきを呼び寄せることを思いつくヒントを与えた。卵を水の中で開けるようセドリックに教え、ハリーにも情報が届くようにした。鰓昆布のことをハリーに知らせるため、ネビルに本を貸したがうまくいかず、結局ドビーを使った。そして最後の課題。迷路の中でフラーを失神させ、クラムに服従の呪文をかけ、ハリーの行く手の障害は取り除いた。
ムーディの魔法の目は、クラウチJr. にとって好都合だった。生け垣を見透かして、迷路の中を全部見ることができたからだ。

ムーディの「敵鏡」に、3人の影がうつり、次第にはっきりする。
しかし、ムーディは鏡に背を向けていて、それを見ていない。ここまで頭が良く用心深い彼としては考えられない失策だが、使命を最後までやりとげたという気のゆるみがあったのか。