ハリー・ポッターと炎のゴブレット(第35章後半)

ムーディの話から、ハリーはやっと、彼が味方でないことをさとった。ムーディはハリーをヴォルデモートのもとへ届けるために、味方のふりをしてあれこれ画策していたのだ。
ムーディが杖を上げた。この時のムーディは、どんな呪文を使うつもりだったのだろう。ヴォルデモートが自分でハリーを殺したいと思っていることを、おそらくムーディは知っていただろうから、失神の呪文を発するつもりだっただろうか。それとも、ダンブルドアのじゃまが入らないうちにアバダケダブラをかけるつもりだったのだろうか。

しかし現実には、失神光線を浴びたのはムーディの方だった。
ダンブルドア、スネイプ、マクゴナガルの三人が部屋の入り口に立ち、ダンブルドアが杖をかまえていた。
「こやつはアラスター・ムーディではない。本物のムーディなら、今夜のようなことが起こったあとで、わしの目の届くところから君を連れ去るはずがないのじゃ。こやつが君を連れていった瞬間、わしにはわかった」
つまり、さすがのダンブルドアも、その瞬間まではムーディを本物と信じていたことになる。
偽ムーディがハリーを連れ去った瞬間に気づいたにしては、ムーディの部屋に来るのにずいぶん時間がかかっている。やはり、セドリックの死を確認し、その善後策を講じるのに手をとられていたのだろう。対ヴォルデモートの戦いにおいてハリーがいかに重要人物であっても、この場ではセドリックの死の方が重要事件なのだから。

ダンブルドアはスネイプに、いちばん強力な真実薬を持ってくるように頼む。
27章でスネイプが、真実薬をちらつかせてハリーをおどしていたのは、この章のための予習だったのだ。
マクゴナガルには、かぼちゃ畑の黒い犬を校長室へ連れていくように頼む。マクゴナガルはこの時点で、シリウスのことをどこまで知っていたのだろう。

ダンブルドアは、偽ムーディのローブから取り出した鍵を、かたわらのトランクに差し込んで開ける。
これも魔法のトランクだった。開けるたびに違う物が入っている。七番目の鍵を開けたとき、本物のムーディが失神したまま横たわっているのが見えた。
偽ムーディは、ポリジュース薬によって、十ヶ月間ムーディになりすましていたのだ。
「秘密の部屋」の巻で出てきたポリジュース薬のエピソードは、「炎のゴブレット」全体の伏線だったことになる。

やがて偽ムーディが本来の姿に戻る。色白の、薄茶色の髪の男。ハリーがペンシーブの中で見た裁判の被告、クラウチの息子だった。
スネイプがウィンキーを連れて戻ってきた。スネイプは即座に「バーティ・クラウチ!」と、正確な彼の姓名を呼ぶ。もともと死喰い人仲間として、顔をよく知っていたのだろう。

真実薬を飲まされたクラウチJr. は、真相を語り始める。
まず、アズカバンで死んだのは母親で、自分は母親と入れ替わって家に戻ったこと。
「母は俺の姿で埋葬された」というせりふからすると、ポリジュース薬で変身中に死んだら元に戻らないという設定らしい。
クラウチ父は服従の呪文で息子を管理し、家に閉じ込めていた。ウィンキーが世話をした。
たまたまバーサ・ジョーキンズがクラウチ家にやってきて、クラウチJr.とウィンキーの会話を聞いてしまった。クラウチ父はバーサに忘却術をかけた。
ウィンキーは、クラウチjr. をワールドカップに連れていけるよう、何ヶ月もかけてクラウチ父に頼んだ。透明マントをかぶって姿を消したまま、クラウチJr.は貴賓席に座っていた。その時、前の席にすわっていたハリーの杖を盗んだ。その杖で闇の印を打ち上げたのだ。

バーサから情報を得たヴォルデモートは、ワームテールの腕に抱かれてクラウチ家にやってきた。クラウチ氏はヴォルデモートの服従の呪文にかかり、父と息子の立場が逆転した。
クラウチjr.はムーディを襲い、ムーディに化けてホブワーツへやってきた。
クラウチ父は服従の呪文が少し解けたすきをねらって家を抜け出し、ダンブルドアに会おうとしたが、ホグワーツ校内で息子に殺された。

ムーディの授業の中で、ハリーが実験台になったとき、ハリーは服従の呪文をある程度跳ね返すことができた。
このときの描写が、服従の呪文というのは完全に効かないこともあるのだと、読者に教えていたのだ。