ハリー・ポッターと炎のゴブレット(第36章後半)

ハリーはどのくらい眠っていたのだろう。あとの描写を考えると、一時間もたっていなかったようだ。
ハリーが目をさますと、そばにモリーとビルがいた。誰かが言い争っている。それはマクゴナガルとファッジ大臣だった。このふたりとスネイプが言い争いながら医務室へやってきたのは、ダンブルドアが医務室にいると思ったからだ。作者としては、ハリーに聞かせるための設定だったろう。本来なら、校長室をめざす方が自然なのだから。そこへダンブルドアもやってくる。

スネイプとマクゴナガルの報告によると、スネイプはダンブルドアの指示どおり、今夜の事件を起こしたデスイーターを捕らえたとファッジに報告した。ファッジは、ディメンターを一体護衛に連れていくと主張した。マクゴナガルが強く反対したが、ファッジは強行。そのディメンターは、クラウチjr. がいる部屋に入るなり、彼におおいかぶさって死のキスをした。
クラウチは死よりもむごい姿になった」と書かれているが、具体的にはどういうことなのだろう。呼吸はしているし心臓も動いているが、意識がない状態、つまり植物状態なのか? 栄養はとらなくてもいいのだろうか。
そして、ディメンターは自分の意志で死のキスをしたのだろうか。それとも、ファッジが命じたのだろうか。これは最後までわからないままだ。そもそも、ディメンターと魔法使いはどうやって意思疎通するのか、どこにも書かれていない。

スネイプとマクゴナガルに続いて、ダンブルドアクラウチJr. が何をしたかを話した。しかしファッジ大臣は、ヴォルデモート復活を信じない。クラウチjr. が妄想の中で「ヴォルデモートの命令」と信じ込んでいた、と解釈していた。

ここでハリーが「僕はヴォルデモートが復活するのを見たんだ!」と主張するのは当然だろう。
しかし、目撃したデスイーターの名前をあげたところで、あまり意味があるとは思えない。それぞれ、魔法界で一定の地位を占めている者たちなのだから。それより、ヴォルデモート復活の経過を詳しく話す方がいいと思うのだが。
ま、どっちにしてもファッジは信じなかっただろう。次の巻ではっきりするが、ファッジはヴォルデモートが復活したとは認めたくない。それにハリーへの不信が加わっている。リータの記事のせいもあるが、「アズカバンの囚人」の巻でハリーたちがシリウスの無実を主張していたことも、不信の原因になっていた。

ダンブルドアはファッジの姿勢を批判し、ファッジはダンブルドアの独断を批判する。
そして、ヴォルデモート復活をどこまでも認めないファッジに、スネイプが腕の印を見せる。一時間ほど前には、もっとはっきりしていた。これがヴォルデモートが仲間を集める手段なのだと。
ダンブルドアやハリーの話は信じられなくても、スネイプの腕の印のことやカルカロフが逃亡したことは、ヴォルデモート復活を客観的に証明することがらだと思う。でもファッジはやっぱり信じない。
ファッジは賞金の千ガリオンを置いて去る。

ファッジが出ていったあとすぐに、ダンブルドアはてきぱきと指示を出す。ある程度予想していた展開だったに違いない。
モリーとビルに、アーサーにできごとを伝えるように頼み、ビルはすぐに魔法省へと去る。マクゴナガルにはハグリッドとマクシームを呼ぶように言う。マダム・ポンフリーには、ウィンキーの世話を頼む。屋敷妖精のことも忘れていないダンブルドアに感動した。ほかの魔法使いだったら、屋敷妖精の気持ちまで考えないだろう。

黒い犬がシリウスの姿になる。モリーは仰天する。
「スネイプは叫びもせず飛び退きもしなかった」と書かれているが、スネイプはこの黒犬の正体をすでに知っていたのだろうか?
ダンブルドアシリウスに「昔の仲間に警戒体制をとるように伝えてくれ」と指示する。リーマス・ルーピン、アラベラ・フィッグ、マンダンガス・フレッチャーの名が出る。アラベラ・フィッグが「賢者の石」に出てきたフィッグばあさんだと気づいた読者もおられるだろう。わたしは気づかなかったけれど。マンダンガスの名前は、ここが初出かな?
ダンブルドアはすでに、第一次騎士団のメンバーだった者たちにシリウスの無実を伝えていたのだろう。スネイプの腕の印が濃くなってきたことをスネイプから聞いて、心の準備をしていたにちがいない。

ダンブルドアは、スネイプにも指示を出す。他の人たちに言うような決然とした口調ではなく、遠慮がちな言い方だ。
「君に何を頼まねばならないか、もうわかっておろう。もし、準備ができているなら… もし、やってくれるなら」
この瞬間、スネイプの本格的な二重スパイ生活が始まったのだ。その任務の危険さ、困難さを知っているからこその、遠慮がちな表現だったのだろう。

ダンブルドアが出ていって、モリーハーマイオニーとロンがハリーのまわりに残ったとき、ハーマイオニーが窓辺で音を立てた。彼女はなにかを握りしめていた。
次の章でわかるが、ハーマイオニーはこの時、コガネムシの姿になったリータを捕らえていた。