ハリー・ポッターと炎のゴブレット(第37章後半)

この場面でハグリッドは、こんなことも言う。
「おまえさんは、おまえの父さんと同じぐらい大したことをやってのけた。これ以上のほめ言葉は、俺にはねえ」
ハグリッドは「賢者の石」4章でハリーに初めて会ったときも「おまえの父さん、母さんはな、おれの知っとる中で一番すぐれた魔法使いと魔女だったよ」「おまえの父さん母さんのようないい人はどこを探したっていやしない」とほめちぎっていた。こういったハグリッドのことばから、父親はりっぱな人間だったとハリーは信じることができたのだ。そのことが、「不死鳥の騎士団」でスネイプの記憶がハリーに、そして読者に与える衝撃を効果的にしている。

学年末のパーティの日がきた。
例年なら、優勝した寮の旗がかざりつけられるのだが、この日は壁の一面だけに黒い垂れ幕がかかっていた。日本語では垂れ幕が一枚か複数かわからないが、原文は drapes だ。
教職員テーブルに本物のムーディがいた。マダム・マクシームも座っている。カルカロフは今どこにいるのだろうとハリーは考える。彼が一年間姿を隠していたが、結局殺されたとわかるのは「謎のプリンス」6章になってからだ。

ダンブルドアが立ち上がり、セドリックを悼んだ。ダンブルドアの音頭で、全員が杯をあげた。チョウ・チャンのほほが涙でぬれていることにハリーは気づいた。
ダンブルドアは「セドリックはヴォルデモート卿に殺された」と発言する。「セドリックが事故や、自らの失敗で死んだと取り繕うことは、セドリックの名誉をけがすものだと信じる」
この発言じたいは、もちろん間違っていない。しかしこれだけの説明で、聞いた者が信じるはずがないだろう。ヴォルデモートがどうやって復活したのか、セドリックがどういう状況で殺されたのか、具体的な状況がわからないのでは、信じようがない。
ダンブルドアは次にハリーをたたえる。ほとんどの生徒が唱和するが、スリザリンの生徒の多くは立たなかった。

ダンブルドアの発言でもっとも大切な部分が、それに続く。
「ヴォルデモート卿は、不和と敵対感情を蔓延させる能力に長けておる。それと戦うには、同じくらい強い友情と信頼の絆を示すしかない。目的を同じくし、心を開くならば、習慣や言葉の違いはまったく問題にはならぬ」
ダンブルドアのせりふの中で、このせりふがいちばん好きだ。
ただし、もしわたしがこの場にいたら、さほど感動はしなかっただろう。あまりに抽象的すぎる。「たとえば…」と、具体的な例を示してほしかった。ダンブルドアの記憶の中に、実例はいくらでもあっただろうから。

ホグワーツを去る日が来た。
ハリーたちは、フラーとクラムに別れのあいさつをする。ここでロンがクラムに嫉妬し、ハーマイオニーがフラーに嫉妬するようすが軽く書かれる。
ホグワーツ列車に乗って、いろいろなおしゃべりをしたあと、ハーマイオニーのかばんから日刊予言者新聞が落ちる。そこで初めてハリーは、新聞にセドリックの記事が出なかったことを知る。第三の課題が終わった翌日、ハリーが優勝したと小さな記事が載っただけだとハーマイオニーは言うのだ。

ここでハーマイオニーは、リータ・スキーターのことを打ち明ける。
ハーマイオニーは、これまでの出来事をじっくり考え、リータが小さな虫に変身していると推理した。そして、登録されている動物もどきの中にリータの名がないことも調べた。第三の課題のあとの医務室で、窓にとまっていた虫をリータだと見破り、それをつかまえて瓶に閉じ込めた。
瓶に呪文をかけて中の虫が出られないようにし、未登録の動物もどきだとばらされたくなかったら一年間ペンを持たないように、と言ったのだという。
ハーマイオニーのやっていることは脅迫だが、相手が卑劣だから、許されると思う。

虫の目のまわりの模様は、リータの眼鏡にそっくりだった。
動物もどきは、衣服ごと、眼鏡ごと変身するのだ。映画「アズカバンの囚人」でピーターが衣服を残して変身したのは、映画だけの演出だろう。

そこへドラコ・クラッブ・ゴイルの3人組がやってくる。
ドラコがハリーやハーマイオニーをののしると、ハリーたち3人が呪文をかける。同時に、フレッドとジョージも呪文をかけていた。
この場面は、ハリーの側に非があると思う。ドラコは悪口を言っただけなのに、ハリーたちは手を出している。わたしがもし教師でこの場にいたら、ハリーたち5人に罰を与えるだろう。

フレッドとジョージのあやしい行動の理由も、この場面でわかる。
ふたりはワールドカップでルード・バグマンと賭けをして勝ったが、ルードは言を左右にして掛け金を払わなかった。それどころか、元金も返そうとせず、姿を隠したというのだ。

ハリーはハーマイオニーとロンがコンパートメントを出てから、フレッドとジョージを呼び止め、賞金を渡す。いたずら専門店の資金に使ってほしいと。
「受け取ってくれないなら、僕、これをどぶに捨てちゃう」というハリーのせりふは、かなり嫌みに思えた。ハリーは有り余るお金を持っていて、賞金などあってもなくてもよいのだ。もしひがみやのロンが聞いていたら、嫌な思いをするだろうな。

ともかく、こうして「炎のゴブレット」の巻が終わる。
これまでもいろいろな事件に巻き込まれたハリーだが、この巻は特に波瀾万丈だった。