ハリー・ポッターと不死鳥の騎士団(第1章)

「不死鳥の騎士団」の第1章は、イライラしているハリーの描写から始まる。
「秘密の部屋」の書き出しにちょっと似ているけれど、あの時のハリーは、イライラというより不安にさいなまれていた。クィレルにとりついたヴォルデモートと直接対決した恐怖や、ロンからもハーマイオニーからも連絡がないことで、不安が募っていた。
しかし今度は、怒りがハリーを支配している。ロンとハーマイオニーは手紙をよこすけれど、知りたいことは何も知らせてくれない。ハリーは気が短くてかんしゃく持ちだから、イライラはいくらでもつのる。

ハリーはダーズリー家の庭の窓の下で、テレビのニュースを聞いていた。ヴォルデモートが復活したのだから、彼が何か事件を起こすはずと信じていたのだ。
その時、パシッという大きな音がした。あとでわかるが、これはマンダンガス・フレッチャーが姿くらましをした音だった。同時に駐車中の車の下から猫が一匹飛び出したが、これはフィッグばあさんの飼い猫ティブルスだった。マンダンガスが姿をくらましたことを、フィッグばあさんに知らせに行ったのだ。
ファンの間では、フィルチの猫ノリス、ハーマイオニーの猫クルックシャンクス、それにフィッグ婆さんの飼い猫たちに関して、ただの猫ではなくニーズルまたはニーズルとの交配種というのが定説になっているらしい。だから彼らは賢く、人間と意思の疎通ができるのだと。でもどうやって意思の疎通をしているんだろう? 

この章でわたしが興味を持ったのは、ハリーのイライラよりも、ダドリーのことだった。
「英国南東部中等学校ボクシング・ジュニアヘビー級チャンピオン」になったというのだ。
このことはバーノンの親馬鹿ぶりを示すエピソードでもあり、ダドリーが強力で正確なパンチを覚えたことは喜ばしくないという、ハリーの側からの視点でしか書かれていない。
しかしわたしは、「賢者の石」の時期から、ハリーを押し付けられたダーズリー家に同情しているから、別の視点からの感想を持った。小学生の時のダドリーは、単に甘やかされたわがままなこどもだったが、スポーツを始めて、しかも公式試合に出られるレベルまでいったのなら、ルールやマナーを守ることも先輩から教えられたはずだ。イギリスに日本のスポーツ界のような上下関係があるかどうか知らないが、少なくともボクシングの練習や試合では、多少とも自分を抑えることができるようになっただろう。
今は夏休みで、しかの小学生時代の子分たちといっしょだから、元のわがままな乱暴者に戻っているようだが。

マグノリア・クレセント通りをうろついていたハリーは、ダドリーとその取り巻きの少年が歩いているのを見た。彼らが解散し、ダドリーがひとりになった時、ハリーはダドリーにからみ始める。
このとき、最初にダドリーに声をかけ、からかったのはハリーの方だ。このあとの出来事はハリーの責任ではなくアンブリッジの策略だが、ダドリーが巻き込まれてハリーが余計な荷物を背負い込むこと自体は、ハリーの自業自得だと言える。

ダドリーとやり合っている最中に、不意にあたりが暗くなり、空気が冷たくなった。ダドリーもそれを感じた。ディメンターがいると、ハリーはさとった。
しかし、ハリーが魔法を使ったと思い込んだダドリーに、ハリーはなぐられる。前述したとおり、ここはハリーの自業自得だと思う。
ハリーは何とか守護霊の呪文を使い、ディメンターを追い払うことに成功した。まわりに気温と光が戻ってきた。

そこへ誰かが走ってきた。ハリーは杖をかまえた。
それはフィッグばあさんだった。ハリーがあわてて杖を隠そうとすると、彼女は言った。
「バカ、そいつをしまうんじゃない!」「まだほかにもそのへんに残っていたらどうするんだね?」
フィッグ婆さんはマンダンガス・フレッチャーの名を口にする。前巻の医務室の場面で、ダンブルドアが「昔の仲間」と言ったうちのひとりの名だった。