ハリー・ポッターと不死鳥の騎士団(第2章後半)

ペチュニアおばさんはダドリーを見て叫び声をあげ、夫を呼んだ。バーノンもやってきて、ダドリーが青ざめて吐いているのを見た。
ハリーは隙を見て二階へあがろうとしたが、ダドリーがハリーを指差して「あいつ」と言ったので、ダーズリー夫妻はハリーが犯人と信じた。
「僕はダドリーになんにもしていない」というハリーの主張はもちろん正しいのだが、この状況では信じろというほうが無理だ。

そこへコノハズクが魔法省からの手紙を運んでくる。「マグルの面前で守護霊の呪文を使い『未成年魔法使いの妥当な制限に関する法律』に違反した。ホグワーツは退学処分、魔法省から役人がまもなくやってきて、杖を折る」という内容だ。

ハリーが守護霊の呪文を使ってから、この手紙が届くまでどのくらいの時間がたったのだろう。フィッグばあさんやマンダンガスとのやりとりがあり、重いダドリーをかついで家に戻るまで三十分ぐらい? たぶん一時間とはたっていない。
それなのに魔法省のこの手際のよさは、アンブリッジが自身で吸魂鬼を送り込み、次の手を準備していたからだろう。ダンブルドアはそれを見越して、フィッグにもマンダンガスにも、ハリーに魔法を使わせてはいけないと指示していた。

ハリーはとっさに逃げる決心をする。逃げたって無駄だろうと思うが、パニックになったハリーにはそこまでの判断ができない。
そこへメンフクロウが、アーサー・ウィーズリーからの手紙を持ってくる。
ダンブルドアがたった今魔法省に着いた。何とか収拾をつけようとしている。おじさん、おばさんの家を離れないように」
ダンブルドアが魔法省に着いたということは、マンダンガスが事態をダンブルドアにちゃんと知らせたということになる。
この時アーサーはおそらく勤務中だったのだろう。この手紙はダンブルドアの指示で書いたものだと思うが、アーサーはこの時点で、ハリーがダーズリー家を捨てたら危険だと知っていたのだろうか。

ハリーは何とかとどまる決心をしたが、バーノンの叱責が始まった。
ハリーが魔法を使ったとダドリーは信じているし、そう信じるのが当然の状況だったから、ハリーがどう言い訳しても通るはずがない、と思われた。
ところが、「吸魂鬼がいたんだ」というハリーの説明に、ペチュニアがおもいがけない反応を見せる。
「魔法使いの監獄の看守だわ。アズカバンの」と、ペチュニアが言うのだ。ペチュニアは思わず口にしてしまった自分自身のことばに驚いていた。
「どうして知ってるの?」と尋ねるハリーに、ペチュニアは「聞こえたのよーーずっと昔ーーあのとんでもない若造がーーあの姉にやつらのことを話しているのを」
(日本語訳では「姉」と訳しているが、「妹」が正しい)
この時ハリーは、「僕の父さんと母さんのことを言ってるのなら、どうして名前で呼ばないの?」と聞き返している。わたしはここを読んだとき、若造というのはシリウスに違いないと思い込んだ。まさかスネイプ先生だったとは!

「その、キューコンなんとかは、ほんとうにいるのだな?」
このバーノンのせりふから、バーノンはペチュニアから魔法界のことをある程度聞いている、と想像できる。
そこへ再び魔法省からのふくろうが飛んでくる。
「杖を破壊する決定を変更した。8月12日の懲戒尋問まで杖を所持してよろしい。退学の件は当日決定するので、現在は停学処分」という内容だった。

とりあえずはほっとしたハリーだったが、バーノンの叱責と問いただしは続いている。ハリーは、吸魂鬼を送り込んだのはヴォルデモート卿に違いないと口にする。ペチュニアの表情が変わる。
ヴォルデモートが戻ってきたことの意味を、ペチュニアが理解している。ペチュニアは何も言わないけれど、ハリーはそれを感じた。
ダンブルドアは、ハリーの両親が死んでハリーが生き残ったこと、ダーズリー家を自分の家と呼べるうちはハリーが安全だということを、赤ん坊のハリーといっしょに置いた手紙で説明したはずだ。ヴォルデモート卿がいつか復活する可能性も書いてあったのだろう。「その時がきたのだ」とペチュニアは今、思っている。

バーノンは、ハリーがここにいることが自分の家族に危険を及ぼすと判断し(その判断自体は正しい)、ハリーに「出ていけ!」とどなる。
そこへまた別のふくろうがやってくる。今度は真っ赤な封筒で、ペチュニアの頭にその封筒が落とされる。吼えメールだった。
「私の最後のあれを思い出せ、ペチュニア」と手紙が吼える。
(「最後のあれ」は、「この前のあれ」と訳すべきだが、この段階ではしかたがないだろう。誤訳とは言えない)
ペチュニアは「この子は家に置かないといけない。追い出せば近所の噂になる」という口実で、バーノンに反対する。
吼えメールはダンブルドアからだった。それがわかるのは37章になってからだ。しかし日本語訳の読者には、ここでばれてしまう。「ダンブルドアの手紙は縦長のフォントを使う」という、原作にない設定を持ち込んでしまったのだから。