ハリー・ポッターと不死鳥の騎士団(第6章後半)

クリーチャーがつぶやく。
タペストリーが捨てられてしまったら、奥様はクリーチャーめを決してお許しにならない。七世紀もこの家に伝わるものを」
シリウスがそれを聞きつけ、「もし取り外せるなら、わたしは必ずそうする。クリーチャー、さあ、立ち去れ」とののしる。
クリーチャーも負けていない。
「アズカバン帰りがクリーチャーに命令する。ああ、おかわいそうな奥様。いまのお屋敷の様子をごらんになったら、なんと仰せになることか」と皮肉をつぶやく。
シリウスとクリーチャー、お互いに、相手の姿を見るだけでイライラするという存在なのだ。どっちも気の毒ではある。でも、もしどちらかから歩み寄れるとすれば、立場の強いシリウスの方が歩み寄るべきなのだ。そのことは、「死の秘宝」で証明される。

ハリーはシリウスと一緒に、クリーチャーが守ろうとしているタペストリーを見る。それはブラック家の家系図だった。
イギリスの旧家では、こんなふうに家系図を壁にかざる習慣があるのだろうか? それとも、この物語だけの設定なのか?
ハリーは、ここでシリウスから彼の家族のことを聞く。

シリウスは母親と不仲で、16歳の時に家出し、学校の夏休みにはハリーの父の家に滞在していた(「日本語訳の「キャンプした」は誤訳)。17歳になったら一人暮らしを始めた。あとでわかるが、魔法界では17歳からが成人年齢なのだ。叔父のアルファードが、シリウスに遺産を残してくれていた。シリウスの母はシリウスの名もアルファードの名も、家系図から消した。

シリウスにはレギュラスという名の弟がいて、15年ほど前に死亡している。シリウスの両親は死喰い人ではなかったが、ヴォルデモートの考えに賛成の立場だった。レギュラスは死喰い人に加わったが、ある時点で身を引こうとしてヴォルデモートに殺された。そうシリウスは説明した。
レギュラスがどのように死んだか、ハリーと読者が知るのは「死の秘宝」10章だ。そこでのクリーチャーの話では、レギュラスは人知れず死んだはずで、そのことはヴォルデモートも知らない。いったいどんな形で、魔法界は彼の死を知ったのだろう?

タペストリーの名前でここで出てくるのは、フィニアス・ナイジェラス、アラミンタ・メリフルア、エラドーラ、アンドロメダ、ベラトリックス、ナルシッサ。ナルシッサの夫になったルシウス・マルフォイと、息子ドラコも家系図にある。
フィニアス・ナイジェラスのことを「ホグワーツの歴代に校長の中で、いちばん人望がなかった」とシリウスが言う。ここを読んだときは、自分の家系を憎んでいるシリウスの偏見だと思った。しかし23章でフィニアスの肖像画が「これだから、わたしは教師をしていることが身震いするほどいやだった!」と言うのを読み、教師というしごとを愛することができなかったのなら、人望がなかったのも本当だろうと納得した。

レギュラスとフィニアス以外に、ベラトリックス姉妹もそれぞれ、今後のストーリーで活躍をすることになる。
この家系図の全体像は、小説ではわからない。しかし原作者の頭の中には、3-4数世代分の系図が全部あった。映画監督の求めに応じて、すぐに系図がファクスで送られてきたという。

午後、みんなで今度は客間の戸棚を片付けることになった。いろいろな怪しい道具を、捨てるための袋に投げ入れた。ジョージが、かさぶた粉と呼ばれる毒の粉をこっそりくすねた。
この作業の描写の中にさりげなく「誰も開けられない重いロケット、古い印章がたくさん、それに…」と書かれているのが、「死の秘宝」で重要アイテムになるロケットなのだろう。「クリーチャーが何度か部屋に入ってきて、品物を腰布の中に隠して持ち去ろうとした」という部分も、あとで考えれば同じアイテムに関する伏線だった。

その後何日も、屋敷の中の掃除が続いた。指揮をとっていたのはモリー・ウィーズリーだった。なぜシリウスじゃないのか、ちょっと不思議だが。
スネイプは何度か来たが、すぐ出ていった。マクゴナガル先生も一度現れた。マンダンガスも出入りしていた。ルーピンはこの屋敷に住んでいたが、「騎士団の秘密の任務で家を空けていた」と書かれている。秘密の任務というのは、狼人間仲間との接触だろうか。

懲戒尋問の日が近づいてきて、ハリーはどんどん気が重くなった。その前夜にダンブルドアが屋敷にやってきて、ハリーに会わずに帰ったと聞いて、ハリーの気持ちはよけいに沈んだ。