ハリー・ポッターと不死鳥の騎士団(第8章前半)

部屋に入った瞬間、ハリーは息を飲んだ。
ここは「炎のゴブレット」30章で、ペンシーブの中で見た部屋だった。あのときハリーは3件の裁判を見た。カルカロフの裁判、ルード・バグマンの裁判、そしてクラウチJr.とベラトリックスを含む4人の裁判だ。中央に被告席、そして壁にそって階段状に並ぶベンチ。同じ光景だった。

今回、ベンチには50人ぐらいが座っている。全員が赤紫のローブを着て、胸にWを飾り文字にしたマークがついているのは「ウィンゼガモット」のWなのだろう。赤紫のローブというのは、裁判に限って使われるものなのだろう。
正面の席にはファッジ大臣がいた。ファッジの両側には見知らぬ魔女が座っていた。あとでわかるが、ひとりはアメリア・ボーンズ、もうひとりがアンブリッジだった。
そして、列の端にはパーシーがいて、記録係をやっていた。
魔法界では、三権分立がまだ成立していないようだ。行政の長である大臣が司法も担当しているし、大臣の部下であるパーシーが記録係をしているのだから。

裁判が始まった。ファッジが関係者の名前を読み上げているとき、ダンブルドアが入ってきた。
正式の裁判なので、フルネームが読み上げられる。ここでハリー自身と、ファッジ・ボーンズ・アンブリッジ、それにパーシーのフルネームがわかる。ダンブルドアも、フルネームを名乗りながら部屋に入ってくるので、彼のフルネームがやたら長いこともここでわかる。

「伝言を受け取ったのかな? 時間と……あー……場所が変更になったという?」
このせりふの言い方で、ファッジがわざと裁判の時間を早め、ハリーとダンブルドアが遅刻するように仕向けたことが明白になる。ダンブルドアがその企みをどうして知ったのかは書かれていない。しかし彼はいろいろなところに自分のスパイを配置しているはずだ。たとえばホッグズ・ヘッドのバーテンと常に連絡をとっていることは、「謎のプリンス」でわかる。また、魔法省の中にも、ハリーの知らない情報源を配置しているだろうし、校長室の肖像画を通じての情報入手も可能だろう。

このときのファッジによる尋問の進め方は、実に巧みだ。
しかし、アメリア・ボーンズがそれをさえぎる。15歳で守護霊を出せるのは異例なので、まずそれを確かめたかったのだ。
ハリーはやっと、ディメンターがいたのでやむを得ず守護霊を出したと言うことができた。
このとき「ざわめきが大きくなるだろうと、ハリーは期待していた。しかし、沈黙だった。なぜか、これまでよりももっと深い沈黙だった」と書かれている。ディメンターがアズカバンを離れてマグル界に出没することは、それほど意外なことだったのだろう。

ファッジは、ハリーが嘘をついていると決めつけた。これは本心だったと思う。
ここでダンブルドアが、「路地にディメンターが存在したことの証人がおる」と発言する。これをきっかけに、法廷の空気が少し変わる。