ハリー・ポッターと不死鳥の騎士団(第9章後半)

夏休み最後の日、教科書のリストが届いた。
「普通はもっと早く来るんだけど……」とロンが言う。
確かに、これまではもっと早くに教科書のリストが届いていた。この年に限ってなぜこんなにギリギリになったのだろう。
ブラック邸に保護呪文がかけられているから、ふくろう便が来られなかったというのが理由なら、マクゴナガルあたりが自分で届けてくれたはず。
ダンブルドアが、闇の魔術に対する防衛術の教師を見つけることができなかった。それで、使う教科書がギリギリまで決まらなかったのが理由かもしれない。でももしそうなら、ホグワーツの生徒全員が、夏休み最後の日に教科書リストを受け取ったことになり、みんな困ったはずだ。
やっぱり、何かの事情でハリーたちの分だけ遅くなったと考えるのが自然だろう。

ロンへの通知には、監督生バッジが入っていた。これはロン自身にも意外なことだった。
ロンもハーマイオニーも、そして双子も、監督生になるのはハリーだと思っていたようだ。ハリーがなぜ選ばれなかったのかは、この巻のラスト近くでわかる。
しかし、なぜロンなのか?
監督生には、生徒達に規律を守らせるという役目もある。ロンがふさわしくないことは、日頃のロンの態度をみればわかることだ。グリフィンドールの五年生が何人いるのかはっきりしないが、少なくともディーンやシェーマスがいる。彼らについての記述は少ないが、ロンよりは監督生にふさわしいんじゃないだろうか。
ハーマイオニーが選ばれるのは当然だ。でも、ロンもハリーも監督生にはふさわしくないとわたしには思える。

ロンが監督生に選ばれたと知ったときの、モリーのせりふがおもしろい。
「なんてすばらしい! 監督生! これで子どもたち全員だわ!」
フレッドとジョージは勘定に入っていないのだ。ま、これで傷つくようなふたりじゃないからいいけど。
あ、ジニーは?
パーシーが監督生だったことは「賢者の石」にも「秘密の部屋」にも出てくるが、ビルやチャーリーもそうだったと書かれていたかな? でもこのあとに「兄弟で4番目の監督生よ!」というモリーのせりふがあるから、卒業した兄たちは全部監督生だったことは確かだ。
「ごほうびをあげなくちゃ」というモリーに、ロンは新しいほうきをねだる。「ただ……ただ、一度ぐらい新しいのが……」というロンのせりふは切ない。ハーマイオニーとハリーが何でも新品を買ってもらっている中、ロンだけがお古ばかりを持たされていた。それが一年生からずっと続いていたのだ。極めつけが「炎のゴブレット」でのドレスローブの屈辱だった。

ハーマイオニーは、ハリーのヘドウィグを借りて、両親に知らせる。「監督生っていうのは、あのふたりにもわかることだから」とハーマイオニー。リアル世界のイギリスの学校でも「監督生」という制度は一般的なのだろう。

そのあと、自分が監督生に選ばれなかったことを、ハリーがウジウジと考える描写がある。
ここで、いつもハリーの影になっているロンの気持ちを思いやればいいのに、とわたしは思った。ハリーにばかり光があたっている陰でロンがどんな気持ちでいるか、今こそハリーにわかるはずなのに、結局ハリーの思考はその方向に向かわなかった。残念だ。

夕食の席では、ルーピンもトンクスもムーディもキングズリーもビルとアーサーも、そしてマンダンガスも揃って、しばらく監督生の話題になった。
ここでシリウスが「ルーピンはいい子だからバッジをもらった」と言うのは腑に落ちない。満月のたびに身を隠さなければならないルーピンに監督生が務まるとは思えないのだが。
設定がいい加減すぎないか?

食事のあとムーディが、ハリーに古い写真を見せる。第一次騎士団のメンバーの写真だ。
ネビルの両親の写真を見て、ハリーはネビルが母親似であることを知る。
「ギデオン・プルウェット。こいつと弟のフェービアンを殺すのに、死喰い人が5人も必要だった。雄々しく戦った」
この、ふたりのプルウェットがモリーの兄弟だったとわかるのは、ずっとあとのことだ。平凡な専業主婦に見えるモリーだが、家族を死喰い人に殺されていたのだ。
「これはダンブルドアの弟のアバーフォース」と、原作者はさりげないせりふをはさんでいる。「この時一度しか会っていない」とムーディが言っているから、アバーフォースは他の騎士団メンバーと連絡をとらず、表向きは消息を絶っていることになる。実はホグズミードで堂々と商売をやっていたのだが、誰もその正体を知らなかったのだろう。

このあと、客間でひと騒ぎが起こる。
客間の書き物机の中にひそんでいるボガードを退治しようとしたモリーが失敗したのだ。ボガードはモリーに、死体になったロンやビルの姿を見せ、モリーは泣き出した。
シリウスとルーピンがかけつけ、ルーピンがリディクラスを唱えて、ボガードは消えた。
ここで疑問。リディクラスはボガードの攻撃に立ちむかい、無害にするだけの呪文だ。ボガードそのものを消滅させるわけではないはず。モリーが「寝る前にボガードを処理してきましょう」と言ったのは、何かほかの呪文を唱えて、ボガードを消滅させるつもりだったのか? 机の中にいるだけなら、放っておいてもいいはずなのだが。

「いつも、みんなの死ぬのが見える。夢に見るの」というモリーのせりふは、兄弟が殺されたという事実を知ったあとで読み返すと、よけい胸に迫ってっくる。
ただ、「アーサーに言わないで」「アーサーに知られたくないの……バカなことを考えてるなんて」というモリーには同感できない。この夫婦、お互いに秘密がありすぎだと思う。とくに、モリーが家族の死を恐れていることは、アーサーに十分理解できるはずだし、アーサーだってモリーにほんとうの気持ちをうちあけてほしいだろうに。

ハリーはベッドに入った。
壁の、絵のないカンバスから声が聞こえた。これがフィニアス・ナイジェラスの声であることは、あとになってわかる。