ハリー・ポッターと不死鳥の騎士団(第12章後半)

話は少し戻るが、この日の朝食の会話の中に注目してよいせりふがある。
ストーリーに直接関係はないが、ホグワーツの時間割について、ロンがこう言っているのだ。
「『魔法史』、『魔法薬学』が2時限続き、『占い学』、『闇の魔術防衛』…(中略)これで一日だぜ」
この少しあとの描写で、「魔法史」が45分間だったこと、「魔法薬学」のあとで昼食をとっていることがわかる。
ホグワーツの授業の単位は45分で、午前中は3時限、課目によっては2時限続きで行われるということなのだろう。
授業と授業の間の休憩時間がどれだけなのかはわからない。ホグワーツはかなり広くて、教室から教室への移動にけっこう時間がかかりそうだから、リアル世界の学校よりは長いのだろうか。

魔法史の授業では、ハーマイオニーが授業を熱心に聞くかたわら、ハリーとロンが落書きをして遊んでいる描写がある。ハーマイオニーがちゃんとノートをとっているので、あとでハリーとロンがそれを写すという話は何度か出てくるが、ここでもそんな会話がある。また魔法史の授業がいつも退屈だと書かれているのは、リアル世界で単調な授業をする教師への批判なのだろうか。それとも、単にいろいろなパターンの教師を登場させるための設定にすぎないのだろうか。

魔法史の授業のあとの移動時間に、チョウがハリーに話しかけてきた。ところがロンがチョウの機嫌をそこねてしまう。ホグワーツ列車の中ではネビルの鉢植えのせいでうまくいかなかったし、今度はロンだ。
ハーマイオニーはここでも冷静に状況を理解し、ロンを叱る。
ここでハリーはハーマイオニーに感謝するべきなのに、ロンとハーマイオニーの両方にうんざりしてしまっている。
ま、意中の人チョウの方から話しかけてくれたことで、多くの生徒から白い目で見られているハリーとしては、それだけでもウキウキするできごとではあったのだが。

魔法薬学の授業のテーマは「安らぎの水薬」だった。スネイプの説明によると、精神安定剤らしい。魔法薬と言いながら、効能がまともなのにちょっと驚いた。
案の定、ハリーは失敗を叱られ、きちんと仕上げたハーマイオニーは無視される。いつものスネイプのえこひいきだ。しかし、手順のどこをハリーが間違えたか、ちゃんと当てているスネイプは、やはり優秀な魔法使いだと思う。

トレローニーの占い学が終わり、いよいよ今日最後の授業「闇の魔術に対する防衛術」の時間になった。
アンブリッジは、まず生徒たちのあいさつの仕方を直す。ここまでは、まともな授業だと思う。
彼女の杖が異常に短いことが書かれているが、これは何か意味があるのだろうか? 単に身長が低いから杖も短いというだけのことだろうか?

アンブリッジは、杖を仕舞って教科書を読むように指示する。しかしハーマイオニーは本を開かずに手をあげた。
ハーマイオニーの抗議に対するアンブリッジの説明は、なかなかうまいと思う。まず「あなたは、魔法省の訓練を受けた教育専門家ですか?」とやわらかく聞き、相手が「いいえ」と答えるのを待って、それなら、あなたには、授業の『真の狙い』を決める資格はありませんね」と、理路整然と説く。アンブリッジは決して頭の悪い女性ではない。
ハリーもロンもディーンも、腹立ちのあまり手を挙げずに発言し、いちいち注意される。パーバティはちゃんと手を挙げて「『闇の魔術に対する防衛術』OWLには実技はないんですか?」と聞く。これにはアンブリッジもなかり苦しい答えを余儀なくされる。「理論を十分に勉強すれば、試験という限られた条件の下で、呪文がかけられないということはあり得ません」と、説得力がなくなってくる。

ハリーがヴォルデモート卿の名前を言って、生徒たちが悲鳴をあげたり椅子から落ちたりしても、アンブリッジはぎくりともしない。この点でも、たいした女だと思う。
ヴォルデモート復活はウソだとアンブリッジは決めつけ、何か羊皮紙に書いた。それを丸め、杖で叩いて継ぎ目なしの封をし、ハリーが開けられないようにした。それをマクゴナガルに渡すように言いつけられ、ハリーは副校長室に向かう。

手紙を読んだマクゴナガルは、アンブリッジの授業で何がおこったかを知った。
「僕はほんとのことを言った!」と叫ぶハリーにマクゴナガルは「これが嘘かまことかの問題だとお思いですか? これは、あなたが低姿勢を保って、癇癪を抑えておけるかどうかの問題です!」と答える。わたしには、とても印象的なせりふだ。
自分の立場だけしか考えないハリー(こどもだからしかたないけれど)に対して、ホグワーツ全体、魔法省を含めた魔法界全体が視野に入っているマクゴナガルだ。現時点では、ハリーの真実よりも、魔法省の干渉をできるだけくいとめることの方が急務なのだろう。結果的にはうまくいかないことになるが。

この場面でマクゴナガルが「ビスケットをお取りなさい」と一度ならず勧めるのは、ハリーを叱りながらも、内心は共感していることの表現なのだと思う。

ところでこの時点のアンブリッジは、ヴォルデモート復活をほんとうに信じていなかったのか。
それとも、ハリーの話を事実だと知っていて、しらばくれたのだろうか。
自分がディメンターを送っていながらシラを切れる彼女だから、知っていても平気で知らないふりをするぐらい朝飯前だろう。
ファッジ大臣がヴォルデモート復活を信じていないことは確かだ。そしてアンブリッジは、死喰い人側には情報源を持っていないはず。ということは、やっぱりハリーの発言をうそだと信じていたのだろうか。