ハリー・ポッターと不死鳥の騎士団(第13章前半)

ハリーが授業中にアンブリッジと口論した話は、すぐにホグワーツ中に広まった。夕食の席で、他の生徒たちがあからさまにハリーの噂をした。ハリーがヴォルデモートと対決したことも、セドリックがヴォルデモートに殺されたことも、生徒たちは信じていない。ハリーがうそをついていると、みんな思っているのだ。
怒りを抑えられないでいるハリーを見て、ハーマイオニーは、「もう、こんなところ出ましょう」と立ち上がる。
ここで「ロンはまだ半分残っているアップルパイを未練たっぷりに見つめてから、ハーマイオニーに倣った」と書かれているのがおもしろい。ロンが食いしん坊だという描写がここにもある。

年度末のパーティでダンブルドアは「セドリックはヴォルデモート卿に殺された」とダンブルドアは明言している。その時は、生徒たちも受け入れたのだ。しかし、夏休みの間に他の情報が魔法界にばらまかれた。ハーマイオニーが言う。「問題は、真実が心に染み込む前に、夏休みでみんなが家に帰ってしまったことよ。それから二ヶ月も、あなたが狂っているとかダンブルドアが老いぼれだとか読まされて!」と。
すぐかんしゃくを起こすハリーと、冷静に状況を分析するハーマイオニー、何もできないロン。この三人の対比がここでも出てくる。

談話室に戻ったハリーたちは宿題を始めようとしたが、部屋の隅でフレッド・ジョージ・リーの三人組が下級生に菓子を配っていた。菓子を手にした一年生たちが次々に失神する。三人は「気絶キャンディ」の実験をしていたのだ。監督生の立場でハーマイオニーは三人をとがめる。
監督生というのは、上級生に対しても警告や処分をする権限があるようだ。

この監督生という制度、何度読んでもよくわからない。
五年生から選ばれるというが、毎年選ばれるのではないようだ。パーシーは五年生のときに監督生に選ばれ、七年生で卒業するまでその座にあった。ドラコは五年生で監督生になり、六年生でもひきつづき監督生だった。
すると、監督生の任期は三年間なのか? それなら、監督生が選ばれるのは三年に一度だけということになる。でもパーシーはハリーたちより四年上、セドリックは二年上だから計算が合わない。
ホグワーツの学校生活は、「魔法」という要素を除けば、イギリスのリアル世界における寄宿学校を反映していると思うのだが、リアル世界の監督生はどうなっているのだろうか。

ハーマイオニーは寝る前に、毛糸の帽子をテーブルに置き、その上に羊皮紙の切れ端と折れた羽根ペンを置いて帽子を隠した。屋敷妖精のために編んだ帽子だという。
ハーマイオニーが出ていってから、ロンは帽子を隠していたゴミを取り払った。「少なくとも、何を拾っているか見えるようにすべきだ」と。これに関しては、ロンの方が正しい。ロンもたまにはまともなことを言う。
翌朝、帽子はなくなっていた。「妖精はやっぱり自由がほしいのよ」とハーマイオニーは喜ぶ。ハーマイオニーが間違っていたとはっきりわかるのは、18章になってからだ。

翌日の授業だが、「二時限連続の『呪文学』の次は、二時限続きの『変身術』だ」と書かれている。このあとに昼休みの描写があるから、午前中に合計四時限あることになる。前章では、午前中は三時限と思わせる記述があったのに? 
監督生のしくみも、時間割も、謎だらけだ。この謎は結局、一読者である自分の中では解決しなかった。

変身術の時間に、マクゴナガル先生はネビルに声をかける。
「あなたの術に問題があるわけではありません。ただ自信がないだけです」
さすがに、生徒をよく見ている。能力があるのにそれを発揮できないでいるネビル。「死の秘宝」で大活躍するネビルを知ってからここを読み返すと、感慨深い。

午後の授業になった。魔法生物飼育学の時間で、この授業はいつも野外で行われる。
教材はボウトラックル。「ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅」では活躍するらしいが、こちらではあまりストーリーにからまない。小枝のような外観の動物だ。
ハーマイオニーはグラプリー=プランク先生の質問に的確に答え、グルフィンドールの点数を上げる。

ハリーは先生に「ハグリッドはどこですか」とそっと聞いたが、「気にするでない」という答えしか得られなかった。それどころか、あとでハーマイオニーに叱られる。「心配そうな顔をしたらマルフォイの思うつぼよ。何が起こっているかわたしたちが知らないって、あいつに知らせるようなものだわ」
そのドラコ・マルフォイは「あいつにとって巨大すぎるものにちょっかいを出しているんだろ」とハリーをからかう。ハグリッドが巨人工作に行ったことを知っているのだ。
あとで考えれば、ヴォルデモートも巨人を味方にすることを復活直後に口にしているのだから、ダンブルドアが誰かを巨人のもとへ送ることは、ルシウスたち死喰い人にとって容易に推察できる話だ。
二重スパイのスネイプは、ハグリッドの行き先をヴォルデモートに報告しているかもしれない。容易に推察できることなのだから、スネイプがばらしても実害は少ない。
知らぬはハリーたちだけ、ということになりそうだ。