ハリー・ポッターと不死鳥の騎士団(第14章後半)

翌日の日曜日、ハリーとロンが談話室で宿題の続きをやっているとき、ハーマイオニーが窓を指さした。コノハズクが窓にとまっている。パーシーのふくろう、ヘルメスだった。
生徒への手紙類は朝食の時間に大広間へ届くが、こんなふうに寮に直接来ることもあるらしい。すると、地下にあるというスリザリン寮の場合はどうするんだろう?

ロンが監督生になったお祝いを述べたあと、「通常の朝の便ではなく、夜に手紙を送る。この手紙は、詮索好きな目の届かないところで、気まずい質問を受けないように読んでほしい」と書かれている。つまり、ハリーに読まれたくないわけだ。
そして、ハリーとは付き合わない方がいいと忠告し、ダンブルドアホグワーツを取り仕切るのも、そう長いことはないかもしれない、それに来週からはアンブリッジ先生がもっとやりやすくなる、などが書かれている。

このあと起こることを考えれば、パーシーは魔法省の中でかなり詳しい情報に接している。来週からアンブリッジの立場が変わることも把握しているのだ。
パーシーはパーシーなりに、ロンのことをまじめに考えてアドバイスしている。わたしはこの手紙を書いたパーシーに共感できる。「両親はやがて間違いに気づくだろう。そのときには謝罪を受け入れる用意がある」なんて、尊大な態度はいかにもパーシーらしくて、わたしには微笑ましいぐらいだ。
しかしロンは、手紙を破って暖炉に放り込んだ。もちろん、ロンの気持ちもわかる。
ハリーも、改めてショックを受けた。魔法界のかなりの部分が、ハリーを情緒不安定な嘘つきだと思い込んでいることは知っていたが、それをパーシーの手書きの手紙で知るのはまた別のことだった。この心理もよくわかる。

ハーマイオニーがハリーとロンの宿題を直しているとき、シリウスの顔が暖炉の中に現れた。アンブリッジがハリーの手をとった瞬間傷痕が痛んだことを、ハリーは手紙でシリウスに報告した。その返事を言うためにシリウスは暖炉に現れたのだ。
アンブリッジは死喰い人ではない、とシリウスは言う。「世界は善人と死喰い人のふたつに分かれるわけじゃない」と。アンブリッジは「反人狼法」を起草し、そのせいでルーピンは就職が不可能になったという。水中人を取り締まるキャンペーンもやったらしい。人間に近いが人間でない存在をアンブリッジは憎んでいる。この知識がハーマイオニーの記憶に残り、33章でケンタウルスを利用することを思いつかせたのだ。

話題がクリーチャーに触れたとき、ハーマイーオニーが言う。
「あなたがもう少しクリーチャーのことで努力すれば、きっとクリーチャーは応えるわ。だって、あなたはクリーチャーが仕える家の最後の生き残りなんですもの。それにダンブルドア校長もおっしゃったけど…」
シリウスハーマイオニーのことばを途中でさえぎり、話題を変えてしまう。
わたしはここまでのシリウスもあまり好きではなかったが、この場面で決定的にシリウスを嫌いになった。クリーチャーにののしられ続けたハーマイオニーが、これだけ公正な意見を持っていて、親身に忠告しているのに、自分自身の好悪だけで相手の忠告を無視するなんて。

アンブリッジが教科書だけを読ませて実地訓練をやらせないのは、ファッジがダンブルドアを恐れているからだと、シリウスが説明する。ダンブルドアは生徒たちを使ってファッジから権力を奪うつもりだと思い込んでいるのだ。だから、生徒たちには戦う訓練をさせたくないのだと。

ハグリッドの消息がわからないことで意気消沈している三人を励ますつもりで、シリウスはまた犬の姿でホグズミードに行くことを提案する。しかしハリーとハーマイオニーは即座に「ダメ!」と声をあげる。ロンが黙っていたのは、あとのふたりほど頭の回転が速くないからだろう。

キングズ・クロス駅でルシウスは犬の姿のシリウスに気づいたはずだと説明するハリーに、シリウスは露骨に機嫌を悪くした。「君はわたしが考えていたほど父親似ではないな」と、冷ややかに言う。
ハリーでなくとも、父親の知り合いから父親と同じであることを求められるのは、息子にとって迷惑なことだ。それにこのせりふは、シリウスが「ハリーの安全より、ハリーの気持ちより、自分の気晴らしを優先している」ことをはっきり示している。