ハリー・ポッターと不死鳥の騎士団(第15章後半)

ハリーは二週目の罰則にも耐え、泣き言を言わなかった。アンブリッジの前で泣き言を言わないことも、この罰則をロン以外の誰にも話さないことも、ハリーの意地だった。気が短いくせに、こういうところは頑固なのだ。このハリーの性格描写には、一分の隙もないリアリティーがある。

火曜日の朝食で、ジョージの予測どおり、アンジェリーナがカンカンに怒ってハリーにかみついてきた。
アンジェリーナの大声にマクゴナガルがやってきて、騒ぎをとがめて減点した。騒ぎの理由がハリーの罰則の延長だときいて、マクゴナガルはさらに減点する。
ハリーはこの減点が理不尽だと怒り狂うが、わたしにはいかにもマクゴナガルらしいと思う。マクゴナガルは、学校全体のことを考え、アンブリッジに口実を与えないよう気をつけているし、ハリーにもかんしゃくを押さえるよう忠告していた。その忠告を忘れるようでは罰則に値すると、マクゴナガルは公正な判断を下したのだ。

朝食後、呪文学の授業があり、その次が変身術の授業。生徒たちが教室に入ると、アンブリッジが先に来ていた。
続いて入ってきたマクゴナガルは、アンブリッジを無視して授業を始めた。
アンブリッジは咳払いをして授業に割り込もうとするが、マクゴナガルは「そのように中断ばかりなさって、わたしの通常の授業方法がどんなものか、おわかりになるのですか? いいですか。私は通常、自分が話しているときに死後は許しません」冷たく言う。ハリーは、マクゴナガルがアンブリッジをやっつけたと感じて喜ぶが、わたしから見れば、マクゴナガルはアンブリッジにもハリーにも、普段と同じ態度をとっているに過ぎない。誰に対しても冷静できびしい、それがマクゴナガルなのだ。

ところでこの授業では「消失呪文」を習っている。無脊椎動物より脊椎動物の方が複雑だから消失も難しい、という設定はおもしろい。
消失した動物はどこへ行くのだろうか。消えっぱなしなのか、それとも一定時間がたつと元に戻るのか。これは小説を最後まで読んでもわからなかった。

このあとが魔法動物飼育学で、グラプリー=プランクの授業だった。ここにもアンブリッジは来ていたが、査察そのものはおだやかに過ぎた。グラプリー=プランクが別に緊張せず、いつもどおりの授業をしたのも原因だろう。ただ、グラプリー=プランクが「ダンブルドアは素晴らしい」と手放しでほめたのに、アンブリッジの機嫌が悪くならず、授業計画を聞いて「あなたは物がわかっているようね」と言ったのはなぜなのだろう。彼女が代用教員で、いずれ学校からいなくなるから気にしなかっただけだろうか。

夜、罰則を終えて談話室に戻ると、ハーマイオニーが薬を用意して待っていてくれた。マートラップの触手を裏ごしして酢に漬けたものだという。酢だのマートラップだのを、ハーマイオニーはどうやって手に入れたのだろう? 生徒用の薬棚にあるのだろうか。
また、ハーマイオニーはハリーの傷に自分で気づいたのだろうか、それともロンに聞いたのだろうか。
ハーマイオニーのことだから、書き取りをさせて手を傷つける魔法のペンが存在することを本で知ったのかもしれない。そして、その傷の痛みが楽になる薬の製法を調べ、作ってくれたのだ。
この薬のことをハリーは25章でリー・ジョーダンに教え、その知識がウィーズリー双子の商品開発のひとつにつながっていく。

この場面で、ハーマイオニーは「ハリーが先生になって防衛術を学ぶ」という提案をする。
ハリーはここでまたかんしゃくを起こして、せっかくの薬の容器を割ってしまう。
まったく気の短い男だ。
容器はレパロの呪文で元に戻るが、こぼれた液体を戻すことはできないというのが面白い。レパロは個体にしか効かないのだ。