ハリー・ポッターと不死鳥の騎士団(第17章前半)

10月の最初の土曜日にホッグズ・ヘッドで集まったあと、「残りの週末を、ハリーは今学期始まって以来の幸せな気分で過ごした」と書かれている。
チョウ・チャンがみんなの前でハリーをほめてくれたこと、ハーマイオニーが「チョウったら、あなたを見つめっぱなし」と言ったことなどを、ハリーが繰り返し思い出して幸せを感じるのは当然だ。しかし、防衛術をハリーが教えることになったのに、日時も場所も決まらないことをハリーはなぜ気にしていないのだろう? そういうことは言い出しっぺのハーマイオニーにまかせておけばよいと、ハリーは思っていたのだろうか?

それはともかく、日曜日にハリーとロンは屋外に出て、湖のほとりで宿題に取り組んだ。
ハーマイオニーは「言うまでもなく宿題を全部済ませていたので」編み棒に魔法をかけて空中に浮かべ、屋敷妖精のための帽子を編ませていた。
こういう、ストーリーには直接からまない描写がとても楽しい。

月曜の朝、談話室に新しい掲示が貼り出されていた。
学生によるチーム、グループ、クラブなどは全部いったん解散し、再結成をしたければアンブリッジに願い出るべしというのだ。アンブリッジ高等尋問官の承認されていないグループを結成した者、それに所属している者は退学処分にする、と書かれている。

ここで二年生の生徒が「ゴブストーン・クラブも閉鎖ってことなのかな?」と話しているのが聞こえた。
ゴブストーンというゲームの名前は、この物語にチラリホラリと現れる。ゲームをやっている描写は一度もないけれど。

土曜日に防衛術をこっそり教えるという相談をしたばかりなので、ハリーとロンにはこのタイミングが偶然とは思えなかった。
確かに偶然ではなかった。ホッグズ・ヘッドの集まりのとき、ウィリー・ウィダーソンといいう男がハリーたちの話を聞き、すぐアンブリッジに報告したことが、27章でわかる。
ハリーとロンはこの掲示のことをハーマイオニーに知らせるため、女子寮への階段を登ろうする。とたんに階段が変形して、つるつるの滑り台のようになった。男子生徒は女子寮へ入れないように魔法がかけてあったのだ。つまり、五年生になるまでハリーたちは女子寮へ行こうとしたことがなかったわけだ。

ハーマイオニーは、「誰かがアンブリッジに告げ口したら確実にわかる」と言う。告げ口した者は「エロイーズ・ミジョンのにきびでさえ、ほんのかわいいそばかすに見えてしまう」と。
エロイーズ・ミジョンの名前はこの物語に数回でてくるが、いつもにきびの話題に絡んでいるだけで、本人はけっきょく登場しない。
そして、このハーマイオニーのせりふの意味が具体的にわかるのは27章だ。

朝食が済んで授業に向かうとき、アンジェリーナがハリーに近づいてきた。
アンジェリーナは、解散の対象にクィディッチチームも含まれていることに気づいたのだ。確かに掲示の文を読めば、クィディッチチームも例外でないことはすぐわかる。しかしハリーたちは、ホッグズ・ヘッドでの会合のことがあるので、そこまで気が回らなかった。

魔法史の授業中、ハーマイオニーがハリーを小突いた。窓の外に、ヘドウィグがいたのだ。
窓を開けてヘドウィグを入れたとき、翼を怪我しているのがわかった。可哀想に、ここまで痛みをこらえて必死で飛んできたのだろう。
ハリーはビンズ先生にことわって教室を出る。このとき「気分が悪いので医務室へ行く」という口実で教室を出るのが、わたしには不思議でしかたがない。自分のふくろうが怪我をしているから治療をしなければと、なぜ正直に言わないんだろう?

職員室に行くと、運良くグラプリー=プランク先生とマクゴナガル先生がいた。
「何かに襲われたね。ただ、何に襲われたのやらわからんけどね。セストラルはもちろん、時々鳥を狙うが、しかし、ホグワーツのセストラルは、ふくろうに手を出さんようにハグリッドがしっかりしつけてある」
このグラプリー=プランクのせりふは、二重の意味で興味深い。
ひとつは、セストラルという名前が初めて出てきたこと。ハリーはすでにセストラルを見ているが、ここではまだ、あの奇妙な動物がこの名前だと知らない。
もうひとつは、グラプリー=プランクが飼育者としてのハグリッドを深く信頼していることだ。教師としては不適格なハグリッドだが、魔法動物の扱いについては同業者から見て有能だと、このせりふが示している。

マクゴナガル先生は「ホグワーツを出入りする通信網は見張られている可能性があります。気をつけなさい」と忠告する。
ハリーはヘドウィグをグラプリー=プランクに預け、ヘドウィグが運んできた手紙を見た。
シリウスの筆跡で「今夜 同じ 時刻 同じ 場所」と書かれていた。