ハリー・ポッターと不死鳥の騎士団(第17章後半)

ハリーはヘドウィグをグラブリー=プランク先生に預けて、元の場所に戻った。もう授業は終わっていて、ロンとハーマイオニーが待っていた。
ハーマイオニーはすでに、誰かがヘドウィグの手紙を奪おうとして乱暴したのだと推理していた。
「封もしてあるし」というハリーに「魔法で巻き紙の封をし直すのは、そんなに難しいことじゃない」とハーマイオニーが返す。まったく魔法界というのは、プライバシーがたやすく侵害されるところだ。
そして、アンブリッジがこの手紙を見たであろうことは、この章のラストで暗に示される。

魔法薬学の授業のために地下へ降りていくと、ドラコ・マルフォイがクィディッチチームの許可証を見せびらかしていた。
「先生は僕の父上をよく知っているし、父上は魔法省に出入り自由なんだ……グリフィンドールがプレイを続ける許可がもらえるかどうか、見物だねえ」
ドラコは金持ちの名家に生まれ、血筋や貧富で他人を差別する価値観の中で育っている。それに「グリフィンドール憎し」の感情が加わって、こういう発言ばかりするようになってしまったのだろう。

「…それに、ポッターだが(中略)魔法で頭がいかれちゃった人の特別病棟があるらしいよ」
ドラコはそう言って、あごをだらんと下げ、白目をむいて見せた。クラッブ、ゴイル、パンジー・パーキンソンが笑った。ドラコはハリーをからかったつもりだったが、反応したのはネビルだった。ネビルはマルフォイになぐりかかろうとして、ハリーとロンに止められた。
ロンにはネビルが逆上した理由がわからない。しかしハリーにはわかった。「炎のゴブレット」30章で、ベラトリックスやクラウチJr.の裁判を見たあと、ダンブルドアがハリーに言った。ロングボトム夫妻は拷問のせいで正気を失い、息子の顔もわからなくなっていると。このときダンブルドアは「みんなにいつ話すかは、あの子が決めることじゃ」と、ハリーに口止めした。

魔法薬学の授業が始まった。アンブリッジが査察に来ていた。
ハリーの悪いくせがまた出る。アンブリッジはメモをとっているだけなのに、アンブリッジがスネイプにどんな質問をするだろうと考えて、魔法薬をつくる作業がいいかげんになり、ハーマイオニーに何度も注意された。ハーマイオニーだってアンブリッジが気になるのは同じだろうと思うが、自分の魔法薬の操作だけでなく、ハリーの手元にまで気をつけているのはさすがだ。

ホグワーツでどのくらい教えていますか」という質問に、スネイプは「14年」と答える。
現在、ハリーは15歳だから、ポッター夫妻が襲われた日の前後にスネイプはホグワーツに雇われたことになる。
「死の秘宝」33章のスネイプの記憶によれば、スネイプはハリーが生まれる少し前にダンブルドア側に寝返った。しかしヴォルデモートの配下であるふりは続けていたことだろう。ホグワーツの新学期が9月であることを考えると、ポッター夫妻が襲われたハロウィンの前月にスネイプがホグワーツに雇われたと考えるのが合理的だ。ヴォルデモートの命令でダンブルドアをスパイする、という形をとったのかもしれない。 

トレローニーの授業では、トレローニーが取り乱していた。査察の結果を受け取ったのだろうと、ハリーは推察した。
続いてのアンブリッジの授業では、アンブリッジがとても満足そうな表情をしていた。

夜、談話室が三人だけになった時間、シリウスが暖炉から顔を出した。
シリウスは、ハリーたちがホッグズ・ヘッドに集まったことを知っていた。マンダンガスが変装して、ホグズミードでハリーを尾行していたという。夏休みの「ハリーの護衛任務」はまだ続いていたのだ。今回はマンダンガスも、トンズラしなかったらしい。

ここでシリウスが「あのバーテンは記憶力がいい」と言っているのが少し気になる。
「炎のゴブレット」24章で、ダンブルドアは弟のことを「字が読めるのかどうか定かではない」と言っていた。「ダンブルドアの弟アバーフォース」と「ホッグズ・ヘッドのバーテン」が同一人物だとはっきりするのは「死の秘宝」後半になってからだが、全体を通してみると、非常に有能な魔法使いだと思える。だからこそダンブルドアは、ずっと以前から弟を情報源として使っていたし、ダンブルドアの死後はハリーやネビルを助けてくれたのだ。
なぜダンブルドアはあのとき「字が読めるかどうか」なんて言ったのだろう。

28人もの生徒が防衛術を練習する場所がないかと、シリウスとハリーたちが相談している最中、シリウスが不意に消えた。
その直後、炎の中に手が現れた。ずんぐりした短い指に、ごてごてとした指輪。アンブリッジの手だった。
シリウスのあの短い手紙で、談話室の暖炉に違いないと見当をつけたのなら、アンブリッジは決して馬鹿ではない。