ハリー・ポッターと不死鳥の騎士団(第25章後半)

ハリーがチョウ・チャンとデートを約束したバレンタインデーがやってきた。
朝食の席で、ハーマイオニーはどこからかの手紙を受け取り、「やっと来たわ。もし今日来なかったら…」とつぶやいた。あとでわかるが、リータ・スキーターからの返信だった。
手紙を読んだハーマイオニーが、ハリーに、昼頃に「三本の箒」に来るようにという。チョウを連れてきてもいいから、と。ここでハーマイオニーが少しでも、何のためにきてほしいのかを話していたらよかったのだが、返事を書くことを急いでいた彼女は説明をしなかった。

初めて女の子とデートをするとまどいや、ちゃんと話ができたうれしさ、話がとぎれたときの気まずさなど、実に細かく描写されている。わたしはヴォルデモートとのたたかいや騎士団の様子などを追いたいので、ハリーたちの恋愛描写はよけいなものに感じてしまうけれど、実は恋愛描写の細かさもこの作品の魅力のひとつなのだろう。

ホグズミードに入ると、10人の脱獄囚のポスターが張られていた。
再逮捕に結びつく情報を提供した者には一千ガリオンの懸賞金を与えると描かれている。1ガリオンを仮に千円としたら、百万円ということになる。賞金としては妥当な額だ。
ただ、ロンにはこのポスターを見せたくないものだと思った。「アズカバンの囚人」で父がガリオンくじをあてた経験から、ぬれ手に粟の金儲けをすぐに考えてしまうくせがついているようだから。
そのロンは、クィディッチの練習があってホグズミードには来ていない。

チョウといっしょに喫茶店に入ったが、会話ははずまなかった。
ハーマイオニーと待ち合わせをしていると言うと、目に見えてチョウの表情が固くなった。ま、あたりまえのことだが。
ぎくしゃくした時間が流れ、チョウはセドリックが死んだときのことを聞いた。
ハリーが「今はセドリックの話はしないでおこう。何かほかのことを話そうよ」と言ったとき、チョウは突然機嫌をそこね、泣き出した。
次の章でハーマイオニーは「あなたがどれくらいチョウを好きなのか、彼女なりのやり方で試そうとしたのよ」と言っていたが、わたしは少し違うように感じている。
セドリックはチョウの元カレだったが、仮に元カレでなく家族や友人だったとしても、セドリックの死に際のことを聞きたいのは当然だ。目撃したのはハリーだけなのだから。だから、セドリックが死んだときのことを質問した。しかしハリーは「僕はもう、話したことは話したんだ。ロンとハーマイオニーに」と、最悪の返事をしている。ロンとハーマイオニーに話したから、チョウと話す必要がないと言っているのと同じだ。チョウが切れるのも無理はない。
チョウは喫茶店を飛び出していった。ハリーは代金を払ってあとを追ったが、チョウは見つからなかった。

「三本の箒」に行くと、そこではハーマイオニーのほかに、リータとルーナも待っていた。
三人の会話を聞いていて、ハリーは(読者も)やっと理解する。ハーマイオニーは、リータに記事を書かせ、それを「ザ・クィブラー」に載せるために彼女を呼んだ。ザ・クィブラーの編集長には、娘のルーナを通じてすでに話がつけてあった。
日刊予言者新聞の説明に納得できていない人もいる。そこへ別の筋書きを説明してくれる記事があれば、それを載せたのが異色の新聞であっても、興味をもつ人はいるだろう。
ハーマイオニーは、リータが未登録の動物もどきだという秘密を握っていて、それを魔法省にばらされたくなければ指示どおりにしなさいと脅迫しているわけだ。
ハーマイオニーが犯罪まがいのことをしているのに、ここを読んでいてハーマイオニーへの反感は感じない。これまでにリータの卑劣さが何度も描写されていたこと、ハーマイオニーが純粋にハリーのために行動していることが読者にもわかること、そのふたつが理由だろう。

ハリーは、ヴォルデモート復活のようすを話し始め、リータの自動速記羽根ペンがそれを記録した。