ハリー・ポッターと不死鳥の騎士団(第28章前半)

第28章のタイトルは「スネイプの最悪の記憶」となっている。
そして、この章までを読んだ段階では、学生時代のスネイプが衆人環視の中ではずかしめを受けたことが、彼の最悪の記憶なのだと納得してしまう。
なぜ「最悪」だったのかがわかるのは「死の秘宝」33章になってからだ。この時スネイプは屈辱のあまりリリーに「穢れた血」と言ってしまい、それがきっかけで絶交されたのだ。

ダンブルドアが逃亡してすぐ、アンブリッジが校長になったという掲示が学校中に貼り出された。
しかし、アンブリッジは校長室に入ることができなかった。入り口のガーゴイル像がアンブリッジの入室を拒否したのだ。それをハリーに教えたのはアーニー・マクミランだが、アーニーは「太った修道士」からそれを聞いたという。修道士の存在をほとんど忘れていたが、「賢者の石」の入学式のところで登場したハッフルパフ寮のゴーストだった。
アンブリッジが校長室に入れなかったのは、ダンブルドアがそういう魔法をかけたせいだろう。
それとも、校長室自身に意志があって、アンブリッジを拒否したのだろうか? 魔法界は何でもありだから、部屋自身が何かの判断をくだすことがあっても不思議はない。「必要の部屋」がいい例だ。

それを聞いてハーマイオニーがアンブリッジの悪口を言っていると、ドラコ・マルフォイが通りかかり、ハーマイオニーから減点する。続いてハリーとロンからも。アンブリッジが「尋問官親衛隊」というのをつくり、監督生どうしでも減点する権限を与えたというのだ。
そこへフレッドとジョージがやってくる。このふたりはいつも一緒だ。モンタギューがふたりから減点しようとしたという。「しようとした、ってどういうこと?」とロンが尋ねると、「最後まで言い終わらなかったのさ。俺たちが、二階の『姿をくらます飾り棚』に頭からつっこんでやったんでね」とフレッドが答える。
この「姿をくらます飾り棚」は「謎のプリンス」の巻に登場する「姿をくらますキャビネット」と同じものなのだろうか。20ページほどあとで、モンタギューが5階のトイレに詰まっているのがわかったとドラコが言っているので、あのキャビネットとは別の機能を持つテレポート装置なのだろう。

双子は、これから大混乱を起こすとハリーやハーマイオニーに予告する。
フィルチがハリーを呼びにきた。ハリーは理由がわからないままフィルチに連れられてアンブリッジの部屋に入った。
アンブリッジは「何か飲みますか?」「紅茶?コーヒー?かぼちゃジュース?」と言いながら杖を振り、次々に飲み物を出した。ハリーが紅茶を選ぶと「ハリーに背中を向け、大げさな身振りで紅茶にミルクを入れた」と書かれている。あとでわかるが、この時にアンブリッジは紅茶に真実薬を入れたのだ。もっともその真実薬、スネイプが渡した偽物だったけれど。

アンブリッジはまずダンブルドアの居所を聞いたが、ハリー自身も知らないから、「知りません」と平静に答えることができた。紅茶は飲んだふりをしただけで、実際には飲んでいなかった。
次にシリウスの居場所を聞かれたときは、やはりあせった。しかし何とかシラを切ることができた。アンブリッジは開心術ができないのだろう。

その時、いきなりドーンという音が聞こえ、部屋が揺れた。
外に出ると、派手な花火が飛び回っていた。フレッドとジョージのしわざだった。
花火は学校中に広がり、燃え続けた。アンブリッジは走り回ったが、フィルチを除いて教師たちは協力しなかった。フリットウィックの「花火はもちろん私でも退治できたのですが、なにしろ、そんな権限があるかどうかわからなかったので」というせりふは痛快だ。これまでアンブリッジが次々に出してきた教育令をみごとに皮肉っている。

この花火騒ぎ、映画ではフレッドとジョージが学校を飛び出すときにやらかすことになっている。
小説では、ふたりの脱走は次の章で、学校の廊下を沼地に変えるという騒ぎを起こすのだが、沼地は絵として地味すぎるから、花火騒ぎと二人の脱走をいっしょにした映画の演出は適切と思う。いや、適切というより、それ以外の手法は考えられないということだろう。

その夜、いい気分で寝付いたハリーは、またあの廊下の夢を見た。今回は扉をあけて部屋に入れた。さらに奥に進むと、別の部屋に出た。棚が並び、ガラスの玉があった。
ここでハリーは目を覚ましたのだが、これはヴォルデモートが予言の玉の部屋までいったん入ったことを示しているのだろうか。

次の日、スネイプの閉心術訓練に行こうとしたとき、チョウが話しかけてきた。
「マリエッタが告げ口するなんて、私、夢にも…」「彼女はとてもいい人よ」とマリエッタをかばうチョウと、ハリーは言い争いになった。この場面、お互いにそんなつもりではなかったのに、売り言葉に買い言葉で言い争いがエスカレートしていく描写が、とてもリアルだ。