ハリー・ポッターと不死鳥の騎士団(第28章後半)

ハリーはチョウに対して腹を立てたまま、スネイプの研究室に入った。
ハリーが閉心術の訓練に来るたび、この部屋にペンシーブがあるのを見ている。今日は、スネイプが自分の「思い」を取り出してペンシーブに入れているところだった。ハリーがスネイプの心をのぞいた時に見られたらまずい記憶を、頭から取り出していたのだ。
おそらくスネイプは、自分が二重スパイであるとわかるような記憶をまず取り除いただろう。そして、屈辱の記憶でありリリーに絶交される直接の理由となったあの日の場面も、ペンシーブに入れた。

訓練を始めようとしたまさにその時、マルフォイがかけこんできた。
行方不明だったモンタギューが見つかった、五階のトイレに詰まっているので助けてほしい、という。
この時のやりとりで、スネイプは「ドラコ」とファーストネームで呼んでいる。教師たちは生徒を名字で呼ぶのが普通だし、スネイプもハリーやロンは姓で呼んでいる。スネイプがドラコを特別扱いしていることがよくわかる。
モンタギューは、トイレに詰まったままで丸一日を過ごしたことになるのだろうか。

「この授業は明日の夕方にやり直しだ」とハリーに告げて、スネイプは部屋を出ていった。
ハリーもすぐに出ていけばいいものを、ペンシーブに近づいた。スネイプが隠したかったものは何か、見たくなったのだ。毎回夢に見る神秘部に関する秘密がここにあるのではないかと、ハリーは勝手な想像をした。

ペンシーブの中でハリーが見たのは…
自分もよく知っている大広間だった。食事のときの大きいテーブルではなく、小机が並び、生徒たちが試験を受けている。「普通魔法レベル」と試験用紙に書かれているので、スネイプたちが5年生のときの風景だ。
試験監督はフリットウィック先生。スネイプ、ジェームズ、シリウス、ルーピン、ピーターもいた。

試験が終わって外へ出たジェームズたちは、しばらく試験の話をしていたが、やがてシリウスが、「退屈だ。満月だったらいいのに」と言い出す。シリウスのごうまんさ、無神経さを表現しているせりふだ。
ジェームズが「これで楽しくなるかもしれないぜ」「あそこにいるやつを見ろよ」と応じる。視線の先にはスネイプ。「いいぞ」「スニベルスだ」とシリウスが応じる。

ここで、ピーターとルーピンの態度の違いが描写されている。
「ルーピンは本を見つめたままだったが、目が動いていなかったし、微かに眉根にしわを寄せていた」
「ワームテールはわくわくした表情を浮かべ、シリウスとジェームズからスネイプへと視線を移していた」
シリウスとジェームズの行動を喜んでいるピーター、よくないと思ってはいるがやめさせる勇気はないルーピン、という図式だ。

そして、ファンの間で有名な、いじめ場面が始まる。スネイプを倒して動けなくしたジェームズが、ことばでもからかう。
そこへリリーがやってくる。「彼が何をしたというの」というリリーに「むしろ、こいつが存在するっていう事実そのものがね…」と答えるジェームズ。リアル世界のいじめ加害者が「あいつがいるだけでむかつく」と言うのとよく似ている。
スネイプも少しは反撃するのだが、ジェームズにはかなわず、空中に逆さ吊りにされてしまう。パンツがむき出しになった。
「スニベルス、エバンズが居合わせてラッキーだったな」とからかうジェームズに、スネイプは「あんな汚らしい『穢れた血』の助けなんか、必要ない」と言ってしまう。
リリーが立ち去ったあと、「誰か、僕がスニベリーのパンツを脱がせるのを見たいやつはいるか?」とジェームズがまわりの生徒たちに言う。

魔法使いは、下着の上に直接ローブをはおるのだろう。映画ではズボンやスカートをはいているが、原作の設定は違うのだ。
「炎のゴブレット」のワールドカップの場面で、マグルのズボンを拒否している老人がいた。そこで、魔法使いはズボンをはく習慣を持たないと思ったが、ここではっきりした。

もしこの先もハリーがペンシーブの記憶を見ていたら、おそらく、スネイプがリリーに絶交される場面も見たことだろう。
しかし、ここでスネイプが戻ってきた。激怒したスネイプに「この研究室で、二度とその面(つら)見たくない!」と追い出されたのだ。

ペンシーブの記憶から出るときの描写は、「ハリーは体が宙に浮くのを感じた。(中略)そして、空中で宙返りしたようなふわっとした感じとともに、ハリーの両足がスネイプの地下牢教室の石の床を打った」と書かれている。
すると、ペンシーブの中の記憶に入るというのは、実際に体全体がこの容器の中に入ってしまうのだろうか。魔法界では物理の法則が成り立たないから、体全体が入っても不思議はないのだが。