ハリー・ポッターと不死鳥の騎士団(第29章前半)

ハーマイオニーは、ハリーが閉心術の練習をする必要性をきちんと理解していたので、ハリーがそれをやめた理由をしつこく聞いた。
しかし、ハリーは本当のことを言えなかった。
スネイプが隠したがった記憶を覗いたこと自体、卑劣な行為だから、正義感の強いハーマイオニーには言いにくい。まして、その記憶の中で自分の父親の恥ずべき姿を見てしまったことは、ハーマイオニーはもちろんロンにさえ言えないことだった。その気持ちはわかる。いつもダドリーにいじめられ、ダドリーのお古を着せられていたハリーには、いじめられるスネイプの気持ちが誰よりも理解できたはずだ。
母のリリーがジェームズを批判していたのは救いだったが、あの時点でジェームズを嫌っていたリリーがどうしてジェームズと結婚することになるのか、ハリーにはわけがわからない。この謎は読者にも、最後まで明かされないままで終わる。

イースター休暇が始まったが、OWL試験を控えた五年生とNEWT試験を受ける七年生とは勉強に明け暮れていた。ハリーも図書館で勉強していた。このとき、ハーマイオニーは寮で勉強、ロンはクィディッチの練習で怪我をしたジャック・スローパーに付き添って医務室へ行っていた。そこへジニーがやってきた。モリーから送られたイースター・エッグをハリーに届けにきたのだ。
包みは一度開けられ、「高等尋問官検閲ずみ」と赤いンクで書かれていた。

ジニーは、最近ハリーの気分が滅入っていることを心配し、「チョウと話せば、きっと…」と言い出す。
ジニーは、恋敵であるチョウとハリーの仲直りを手伝おうという殊勝な気持ちだったのだろうか。「死の秘宝」でチョウの邪魔をしたジニーとは正反対の態度だ。
ハリーは、チョウでなくシリウスと話したいのだと打ち明ける。
ジニーは「きっと何かやり方を考えられると思うわ」と励まし、ハリーは少し気が楽になる。
ジニーと話しながらチョコレートを食べていたハリーを見て、司書のマダム・ピンスは激昂するが、これはハリーが悪い。図書室で飲食するなど言語道断だ。

イースター休暇が終わりに近づいたころ、掲示板に進路指導の通知が貼り出された。
五年生はひとりずつ寮監と個人面接し、将来の職業について助言を受ける。六年生と七年生の選択科目が将来の職業につながるからだ。これに関する生徒どうしの会話は、ストーリーに直接関係はないものの、魔法界の描写としておもしろい。

いろいろな職業と、それに必要なNEWT試験の成績とをハリーたち三人が話しているところへ、フレッドとジョージがやってくる。ジニーから話を聞いたのだ。
明日から授業が始まる。その日に、ひと騒ぎをおこし、ハリーがシリウスと話す時間を作ってやろうと、二人は言うのだ。

ハリーは、シリウスのナイフでアンブリッジの部屋の鍵を開けて忍び込むつもりだった。アンブリッジの暖炉だけは見張られていないと、彼女自身が28章で言っていたのだ。
「炎のゴブレット」の23章に、シリウスがハリーに贈ったクリスマスプレゼントの描写があった。ペンナイフで、どんな鍵でも開けられ、どんな結び目もほどけるアタッチメントがついていると、原文にある。「五徳ナイフ」のようなものなのだろう。アンブリッジはドアにアロホモーラを効かなくする呪文をかけているだろうが、シリウスのナイフがあれば開けられる、とハリーは考えた。
魔法というのは、たいていの呪文に関して「上には上、またその上」があるようだ。

ハーマイオニーはハリーの計画にしつこく反対した。なぜシリウスと話したいのか、ハリーの気持ちを知らないハーマイオニーとしては当然の態度だ。
「占い学のクラスにつくころには、ハリーの機嫌は最悪で、マクゴナガル先生との進路指導の約束をすっかり忘れていた」と書かれている。ハリーが何かに気をとられて大切なことを忘れてしまう描写は作品中に何度かあるが、ここもそのひとつだ。
ロンが思い出させてくれたので、ハリーは大急ぎでマクゴナガル先生の事務室へ行った。
その部屋にはアンブリッジもいた。いつものようにクリップボードをひざに載せている。アンブリッジはマクゴナガルの弱みをつかみたかったのか、ハリーが何を言い出すか監視したかったのか。その両方だろう。