ハリー・ポッターと不死鳥の騎士団(第29章後半)

「卒業後、何をしたいか、考えがありますか」
マクゴナガルの質問に、「闇払いはどうかなあと」と、ハリーはモゴモゴ答える。
ハリーは、これこれになりたいというはっきりした希望はなかったのだ。思いつくのが闇払いぐらいだったのだろう。
それには、NEWTを少なくとも五科目合格することが必要で、それもE以上しか駄目だとマクゴナガルが説明する。さらにきびしい適性テストがある。狭き門で、「この三年間はひとりも採用されていないと思います」と。
ニンファドーラ・トンクスがハリーを迎えに来たとき、「一年前に資格をとったばかり」と言っていたのと矛盾するようにも見える。ただ、闇払いは採用後さらに三年間の訓練があるとマクゴナガルが言っているので、トンクスは四年前に採用されて、昨年に訓練を終えたのかもしれない。

先の話になるが、原作者の発言によればハリーは実際に闇払いになる。七年生の時期には学校に行かず、NEWTは受験しなかったはずなのに。
ヴォルデモートを倒した実績が認められて、特例扱いになっただろうか。

話を戻して… マクゴナガルは、闇払いになるためにどの科目を選択するべきか、説明を始める。
そこへアンブリッジが割り込む。マクゴナガルは最初無視していたが、とうとう言い合いになった。ハリーが闇払いになれる可能性はまったくないから、無駄な望みを持たせるな、というアンブリッジ、ハリーが闇払いになるよう協力する、というマクゴナガル。
最初は冷静だったマクゴナガルが、しだいに感情的になっていく描写がおもしろい。進路指導が終わってハリーが部屋を出てからも、二人の舌戦は続いていたというのだ。

その日の午後の授業で、アンブリッジはかなりの険悪ムードだった。
ハーマイオニーは、何度もハリーに、アンブリッジの部屋に入る計画を断念するよう懇願する。
ダンブルドアは、あなたが学校に残れるように、犠牲になったのよ」「もし今日放り出されたら、それも水の泡じゃない!」
「アズカバンの囚人」で、ルーピンがハリーを説教した場面を思い出させるせりふだ。
ハーマイオニーの忠告は100パーセント正しい。それにハーマイオニーは、自分の損得ではなく、ハリーの身を思って忠告している。

校内のどこかから破裂する音や騒ぐ声が聞こえた。生徒たちが騒ぎのある方へ走って行く。ハリーはみんなと反対の方向へ走り、アンブリッジの部屋へ向かった。透明マントをかぶり、シリウスのナイフでドアを開け、部屋に入った。
マントをぬぎ、煙突飛行粉をつかんで暖炉の薪に落とした。暖炉に首だけをつっこみ、グリモールド・プレイス12番地と唱えた。

回転がとまると、頭はブラック邸の暖炉の中にあった。
ハリーはルーピンとシリウスに、ペンシーブの中で見たことを話した。ハリーは父親のふるまいを正当化できる説明が欲しかったはずだが、それは得られなかった。
わかったのは、リリーとジェームズが七年生になってから付き合うようになったということだ。「ジェームズの高慢ちきが少し治ってからだ」とシリウスが言い、「おもしろ半分に呪いをかけたりしなくなってからだよ」とルーピンが言う。つまりそれまでのジェームズは、おもしろ半分に呪いをかける生徒だったのだ。

スネイプが、閉心術の訓練をやめると聞いて、シリウスとルーピンは思いがけず激しい反応を見せた。訓練は続けるべきだと、二人とも考えていたのだ。
訓練が中止になってほっとしていたハリーには意外だった。
そこで何かの音が聞こえ、ハリーは大急ぎで暖炉から首を抜いて透明マントをかぶった。入ってきたのはフィルチだった。
「鞭打ち許可証…鞭打ち許可証」とつぶやきながら、フィルチは引き出しから書類をひっぱりだし、すぐ出ていった。

ハリーも廊下へ出て、騒ぎが聞こえる玄関ホールに向かった。
そこには学校中の生徒たちが集まっていた。中央にフレッドとジョージがいて、追いつめられた様子にも見えた。
このとき、フレッドとジョージがどんな騒ぎをおこしたのか、全容はわからない。臭液をかぶっている生徒がいたこと、学校の廊下を沼地に変えたことは書かれているが、たぶんそれだけではないだろう。全校生徒が集まってくるような騒ぎだったのだから。

アンブリッジが鞭打ちの許可を与え、フィルチが大喜びで実行しようとしたが、双子は平気な顔をしていた。
双子が杖をあげてアクシオを唱えると、19章で没収されてアンブリッジの部屋にあったほうきが二本飛んできた。「一本は、アンブリッジが箒を壁に縛りつけるのに使った、思い鎖と鉄の杭をひきずったままだ」と書かれている。アクシオの呪文は、鎖で固定された物でさえ呼び寄せることができるのだ。

「上の階で実演した『携帯沼地』をお買い求めになりたい方は、ダイアゴン横町93番地までお越しください。ウィーズリー・ウィザード・ウィーズ店でございます」とフレッドが大声でいい、二人は箒に乗って浮かび上がり、扉を通って外へ出ると空に吸い込まれていった。

原作者は頭韻が好きとみえる。
ロックハートの著書もそうだったし、「クィディッチ今昔」に出てくるプロチーム名もみな頭韻を踏んでいる。トヨハシテングだってT.T.だ。ビードルの物語の原題は The Tales of Beedle the Bard だから、原作者はBで始まる名前を考えたのだ。 
そして、ここで発表されたウィーズリー双子の店も、やっぱり頭文字はWで揃っている。