ハリー・ポッターと不死鳥の騎士団(第34章前半)

ハリーとネビルはさっさとセストラルに乗ったが、ハーマイオニーとロンとジニーはぽかんとしている。セストラルが見えないから、当然なのだ。
ルーナが手伝って3人をそれぞれセストラルに乗せ、たてがみをしっかりつかむようにと説明した。
ハリーが「ロンドン、魔法省、来訪者入口」と言うと、セストラルは翼を広げ、急上昇した。
見えない乗り物に乗る。それも高速で。とほうもない恐怖だろうと思う。鞍もおかずに乗っているのだ。もし落ちたらどうなるのだろう?
ま、そこはフィクションだから、落ちる心配はしなくていいのだろう。

このとき「血のように赤い夕焼けに向かって飛翔」と書かれているから、出発したのは夕方だ。空が暗くなり、星が見えてくる。
それからどのくらいの時間がかかったのか、具体的に書かれていないからわからない。その後にいろいろなできごとが起こり、夜明けまで続くので、ロンドンに着いたのはまだ宵の口だったのかもしれない。もしそうなら、セストラルは汽車よりずっと早いことになる。
セストラルは急降下し、ふわりと歩道に降りた。そこは、夏休みにアーサーと来た電話ボックスのそばだった。

ハリーの指示で、6人は電話ボックスにぎゅうぎゅう詰めに入り込む。「受話器にいちばん近い人、ダイヤルして! 62442!」とハリーが叫び、ロンがダイヤルを回す。
わたしはここでおどろいた。何ヶ月も前に一度聞いただけの番号を、ハリーが覚えていたとは。数字というのは、覚えにくいものなのに。
電話ボックスの声が「お名前と用件をおっしゃってください」と言うのは、前に来たときと同じだ。コイン返却口に名前付きのバッジが出てくるところも。

エレベーターが下がり、魔法省に着いた。以前に見たとおりの噴水があったが、誰もいない。
守衛室も空だった。閉庁時間だからいないのか、ヴォルデモートが入り込んで何かしたのかは不明だ。あとで起きたことを考えると、単に閉庁時間だったからという理由かもしれない。
しかし、魔法省というのは不用心なところだ。外部の者が簡単に入り込めるなんて。

別のエレベーターに乗り換え、さらに下の階へ。
昨年夏から何度も夢に見た、神秘部へ続く廊下。ハリーは今そこに立っている。
廊下を進むと、扉がぱっと開いた。
中へ入ると、そこは円形の部屋だった。同じ形の扉がいくつも並んでいる。全部で十二の扉がある。そして、部屋がぐるぐるまわりだした。どの扉から入ってきたかわからないようにするためだろうと、ハーマイオニーが推理する。おそらくここの職員は、何かの呪文で扉を見分けるのだろう。電子ファイルのIDとパスワードみたいなものだ。
方向がわからないまま、ハリーはひとつの扉を開けた。