ハリー・ポッターと不死鳥の騎士団(第36章)

ダンブルドアはほとんどの死喰い人を部屋の中央に一束にして、見えない縄で拘束したようだった」と書かれている。15ページあとのダンブルドアのせりふに「姿くらまし防止呪文」という名前が出てくるけれど、それがこの術の名前なのだろうか。それともダンブルドアは、まず拘束呪文をかけて、それから姿くらましができないようにこの呪文をかけたのだろうか。ダンブルドアはほとんど無言呪文を使っているから、何の術を使ったのか、読者にもわからないケースが多い。
 
ルーピンは、シリウスを追っていこうとして暴れるハリーを押さえていた。ムーディは倒れているトンクスの方に行き、蘇生させようとしていた。キングズリーはベラトリックスと戦おうとしたが、一撃で倒されてしまった。ベラトリックスの強さは作品中で何カ所か描写されているが、ここもそのひとつだ。
しかし、ダンブルドアが杖をベラトリックスに向けると、ベラトリックスはさっと逃げ出した。相手の強さを認識し、無駄な戦いはしない。ただ強いだけでなく、状況を見て適切な判断をする能力も持っているのだ。

シリウスがもう戻ってこないと納得したハリーは、今度はかたきであるベラトリックスをがむしゃらに追いかけた。脳の間を通ったとき、ルーナ・ジニー・ロンを飛び越していったと書かれている。この三人は戦える状態ではなかったようだ。
ハリーがアトリウムまできたとき、ベラトリックスはエレベーターにたどりついていたが、逃げ去ることはせず、ハリーに向かってきた。ハリーはここで初めて、宿敵ベラトリックスと直接対決することになった。ハリーは磔の呪文を使い、相手をひるませたが、ベラトリックスはすぐに立ち直った。

ベラトリックスがうろたえたのは、予言と球が割れたとハリーが言った時だった。
この時のハリーは、ベラトリックスに負けず劣らず、相手を挑発している。魔法の力ではベラトリックスの方が上だが、ごうまんさについては互角だと思う。
ベラトリックスはその場にいないヴォルデモートに「ご主人様! 私は努力いたしました。どうぞ私を罰しないでください」と必死で弁解している。ヴォルデモートがすぐそばで聞いていることを知っていたのだろうか。

そこへヴォルデモートが姿を現した。
ヴォルデモートはハリーに向かってアバダケダブラを放った。泉の魔法使いの像が動き、ハリーの盾になった。ダンブルドアが像を動かして呪文を防いだのだ。
ハリー・ポッターシリーズの魔法には、光線を命中させることで効く呪文がけっこうある。そして、この主の呪文は物理的に遮ることができる。対象が動いて逃げるか、何かの障壁を作るかで防げるのだ。鉄砲の弾みたいなものか。

しばらく、ダンブルドアとヴォルデモートの争いが続いた。ここでの術の応酬の描写は迫力がある。
自分の力が相手に及ばないとさとったヴォルデモートは、ハリーにとりつき、ハリーを盾にしてダンブルドアの攻撃を防ぐ。ダンブルドアがためらった一瞬、ヴォルデモートはベラトリックスをつかんで姿くらましで逃げる。

いつの間にか、まわりが騒がしくなり、魔法省の職員たちが来ていた。
紅のローブにポニーテールの職員が「ファッジ大臣、わたしは『あの人』を見ました!」と叫び、ファッジも「わかっておる、ウィリアムソン、わたしも『あの人』を見た!」と応じる。
ファッジはようやく、ヴォルデモート復活を認めたのだ。

この時のファッジは「細縞のマントの下はパジャマで」と書かれている。つまり、魔法省職員が大勢やってきたのは、出勤時間だったわけではないのだ。すると、騒ぎが起こっていることを誰が大臣や職員たちに知らせたのだろう? ハリーたちがやってきた時、守衛はいなかったし。

ダンブルドアは、泉の魔法使いの像の頭が転がっているところに行き、杖をその頭に向けて「ポータス」と唱える。そして、このポートキーで学校に戻るようにとハリーに言う。
ポートキーの魔法については、作品全部を読んでもよくわからない。
「炎のゴブレット」でワールドカップ会場に行くとき使ったポートキーは、時間指定タイプだった。決まった時間になると作動するものだ。「死の秘宝」で、トンクス家からウィーズリー家へ移動した時に使ったものも、時間指定タイプだった。
しかし「炎のゴブレット」の優勝杯は、触れることで作動するタイプだった。しかも、もう一度触れると再度別の場所に移動できる(この場合は、迷路の入り口に移動する)というものだった。
おそらく、「ポータス」の呪文を唱えるだけでは駄目で、その時に行き先を心の中で強く思うとか(姿くらましのように)何か条件があるに違いない。

ハリーは像の頭に手を載せた。次に何が起ころうとどうでもよい、という捨て鉢な気持ちになっていた。