ハリー・ポッターと不死鳥の騎士団(第37章後半)

ダンブルドアの説明が始まる。
「賢者の石」でハリーは「そもそも、なぜヴォルデモートは僕を殺したがったのでしょう」と尋ねたが、答えてもらえなかった。その答えがここで語られる。
もっとも、「謎のプリンス」や「死の秘宝」ではもっと重要な謎解きが待っているので、ここでダンブルドアが語るのは、真実のほんの一部なのだが。

ポッター夫妻が殺され、ヴォルデモートが失踪した数時間後。ヴォルデモートの配下たちはまだ健在だ。それに、ヴォルデモートがほんとうに滅びたのか。
「必ずあやつが戻ってくると確信があった」「あやつが君を殺すまで手を緩めないじゃろうと確信していた」「わしがどのように複雑で強力な呪文で護ったとしても、あやつが戻り、完全に力を取り戻したときには、破られてしまうじゃろうとわかっておった」と、ダンブルドアはハリーに話して聞かせる。
ダンブルドアはヴォルデモートの実力を甘く見てはいなかった。

ハリーを守る唯一の方法としてダンブルドアが選んだのは、リリーの血縁にハリーを預けるという方法だった。
他の魔法使いにハリーを預けなかった理由には、英雄扱いされてごうまんな性格に育つことを避けるということもあっただろう。なにしろあのジェームズの血をひく子なのだ。しかしもっと重大な理由は、ハリーの身の安全だった。

「そうすることで、おばさんは、わしが君にかけた呪文を確固たるものにした」
このダンブルドアのせりふはおもしろい。
まず、リリーが命をかけてハリーを守った。その土台の上にダンブルドアが「リリーの血縁の家にいれば、ヴォルデモートや死喰い人はハリーに手出しができない」という魔法をかけた。その魔法は、ペチュニアがハリーを引き取ることで発効した。
三段構えの魔法なんて、この物語の中でも珍しい。

2章でペチュニアあての吠えメールを送ってきたのは、ダンブルドアだったのだとハリーはここで覚る。
しかし、手紙ひとつでハリーをペチュニアに預け、ハリーのせいでペチュニアがいろいろ不愉快な目にあってもフォローせず、ハリーが追い出されそうになったら吠えメールだなんて、いくら魔法界を守るためとはいえ、ダンブルドアは身勝手すぎるのではないか。

ペチュニアの家を我が家とする」というのがダンブルドアがかけた魔法の条件だったから、ハリーは毎年夏休みにはダーズリー家へ戻らなければならない。
そのことがようやくわかって、ハリーも読者もすっきりする。
ディメンターに襲われたとき、フィッグやシリウスが「家を出てはいけない」と強く言った理由も、やっと納得できる。
「アズカバンの囚人」で、マージをふくらませたハリーは家を出てしまった。ナイトバスに拾われて無事だったが、ヴォルデモートが復活した今もしハリーが家出をしたら、あの時よりはるかに危険な状況になるはずだ。

そして、ダンブルドアはペンシーブで「予言」の記憶を再生する。
「闇の帝王を打ち破る力を持った者が近づいている」ということばで始まるトレローニーの予言は、ハリーとネビルにあてはまるものだった。
「一方が生きる限り、他方は生きられぬ」という部分が、これまでダンブルドアがハリーに予言の話をしなかった主な理由だろう。
ここでダンブルドアは「ヴォルデモートはハリーを選んだ」という言い方をしているが、わたしは変だと思う。別に選ぶ必要はない、両方殺せばいいのだから。たまたまハリーを先に狙い、リリーの愛の魔法で撃退されてしまったが、もしハリーを殺すのに成功していたら、続いてネビルを狙ったはずだ。

トレローニーの予言を盗み聞きしていた人物がいたこと、その人物が予言の前半を聞いただけで居酒屋から放り出されたことを、ここでハリーは知る。
盗み聞きの犯人がスネイプだったことがわかるのは次の巻になってからだ。
放り出したのはおそらくアバーフォース・ダンブルドアだと思われるが、彼がホッグズ・ヘッドのバーテンであることは、最終巻までわからない。