ハリー・ポッターと不死鳥の騎士団(第38章後半)

ハグリッドは小屋の裏庭の畑にいた。
31章でアンブリッジの部下たちに襲われ、ファングといっしょに姿を消したハグリッドだったが、ダンブルドアが復帰したのでホグワーツに戻ってきたのだ。
ハグリッドは、「炎のゴブレット」の時期にシリウスが隠れていた洞穴に住んでいたという。シリウスの名前を口にしてしまい、あわててことばを飲み込んだのは、シリウスを失ったハリーの気持ちを思いやってのことだろう。

「あいつは戦って死んだ。あいつはそういう死に方を望むやつだった」というハグリッドのせりふは当たっていると思う。
しかし、あの時もう少しブラック邸で辛抱していれば、それから一ヶ月とたたないうちに無実の罪が晴れて、大手を振って外を歩けるところだったのではないか。
ハーマイオニーが医務室で読んでいた「日刊予言者新聞」には、シリウスの名誉回復は書かれていない。けれどもヴォルデモートの復活が公になり、そのいきさつが報道されれば、ピーターとシリウスの役割が明らかになるのは時間の問題だったはずだ。
学生時代、シリウスはスネイプをそそのかして、変身したルーピンのところへ行かせた。狼化したルーピンがスネイプを傷つけたら、あとでルーピンがどんなに苦しむか、ダンブルドアやマダム・ポンフリーの立場がどうなるか、まったく考えていなかった。
その身勝手な性格は、死ぬまで直らなかった。シリウスのファンは多いが、わたしは彼が大嫌いだ。

ハグリッドと話していて、話題がシリウスのことになるのに耐えられず、ハリーは話の途中で小屋を出てしまう。急に、ひとりになりたいという気持ちにかられたのだ。

「ロンとハーマイオニーが退院したのは、学期が終わる三日前だった」と書かれている。ふたりは何日間入院していたのか。小説ではよくわからない。
ただ、公式サイト Pottermore に、シリウスの命日が1996年6月18日だと書かれている。魔法省の戦いはこの日だったのだ。学期の終わりが6月30日だとすると、十日近く医務室にいたことになる。

アンブリッジは、学年末パーティの前の日に学校を去った。こっそり出るつもりだったが、ピーブスに見つかって騒ぎになり、大勢の生徒や教師に見物されるはめになった。
わたしはダーズリー親子がひどい目にあうエピソードは(たとえばトンクスの偽手紙におびき出されるとか)は嫌いで、その都度ペチュニアたちに同情してしまうが、アンブリッジがひどい目にあう場面は好きだ。「いい気味だ」と思う。

学年末パーティの日、ハリーは荷造りをしていて、トランクの底にある包みを見つける。シリウスが24章で「わたしに連絡したい時は使え」と渡してくれたものだ。
それが「両面鏡」と呼ばれる魔法道具だったことが、ここでやっとわかる。もしこれを使っていたら、魔法省におびき出されることもなかったのに。
ここでハリーのかんしゃく持ちの性格がまた発揮され、ハリーは鏡を投げて割ってしまう。
この割れた鏡が、「死の秘宝」では重要アイテムになる。

シリウスがゴーストになっていればまた会えるのではと、ハリーはニックを探す。しかしニックの話から、ゴーストになる魔法使いは少なく、シリウスは二度と戻ってこないとわかる。
意気消沈したハリーは、廊下でルーナに会う。ここでルーナの持ち物を他の生徒がよく隠すこと、ルーナが九歳で母親を失ったことを知る。
ここでのルーナとの会話が、ハリーの心を慰めてくれる。楽天的でものごとに動じないルーナの性格が、ハリーの気持ちをやわらげてくれるのだ。

ロンドンへ戻るホグワーツ列車の中で、DAメンバーがドラコたちを襲撃する場面がある。恨み重なる相手であることはわかるが、大勢で三人を襲撃するのはやりすぎだと思う。
もうひとつ、やり過ぎと思ったことがある。マリエッタ・エッジコムの顔のおできがそのままだったことだ。ハーマイオニーの呪いはすでに目的を達したのだから、元に戻してあげればいいのに。
そのマリエッタに付き添っているのはチョウだ。自分たちを売ったマリエッタを恨まず、友情を保っているチョウに拍手を送りたい。

キングズ・クロス駅についたときの描写に、「車掌が(中略)魔法の障壁を通り抜けても安全だと合図した」とある。これまでは描写されていなかったが、マグルに気づかれないタイミングを測るのも車掌の仕事だったらしい。

駅では、ムーディ・トンクス・ウィーズリー夫妻、それに双子が待っていた。双子の商売は順調で、ふたりは最高級のドラゴン革のジャケットを着ていた。
ダーズリー親子もいて、ムーディとアーサーは、ハリーをいじめたら我々にもすぐわかる、とおどかす。
「賢者の石」以来不思議に思っていることだが、なぜダーズリー一家は毎年そろって迎えにくるのだろうか。「賢者の石」でダイアゴン横町で買い物をしたあと、ハリーはひとりでダーズリー家へ戻っている。仮にひとりで戻れないとしても、三人そろって迎えにくる必要はないはずだ。
「ハリーがダーズリー家を我が家とする」という条件の中に、夏休みのはじめにキングズ・クロス駅で出迎えることも入っているのだろうか。もしそうなら、ペチュニアはともかく、それにつきあってくれるバーノンとダドリーに、ハリーは感謝しなくてはいけないはずだ。