ハリー・ポッターと謎のプリンス(第2章前半)

第1章は魔法界とマグル界の関係の一面を描いていて興味深いが、あくまでサイドストーリー。しかし第2章はストーリーに直接かかわる会話がかわされていて、とても重要な場面だ。
この章も、ハリーの知らないエピソードが書かれている。

「首相執務室の窓に垂れ込めていた冷たい霧は、そこから何キロも離れた場所の…」と書かれ、この文に続いて、スネイプが住むスピナーズ・エンドの荒廃ぶり、不潔さが描写される。
首相官邸は当然ロンドンにある。そこから何キロも離れたというだけで、場所はわからない。しかしここがイギリス南部なら、スネイプは夏休みにホグワーツを遠く離れて自宅に戻っていることになる。
スピナーズ・エンドはおそらく架空の地名だろう。しかし「昔は紡績工場が建ち並んで栄えたが、今はさびれている」という地域は現実にも存在するに違いない。スピナーズは「紡ぐ人」の意味だろう。エンドは「どんづまり」か?

ナルシッサとベラトリックスが、この場所に姿あらわしする。
「すらりとした姿」と形容されるナルシッサ。何か動くものを見て、いきなり殺人光線をあびせ、無慈悲さを描写されるベラトリックス。ふたりが「ベラ」「シシー」と呼び合っていることがわかる。姉妹なのだから当然ではあるが。
ベラトリックスはこの場所を「マグルの掃き溜め(原文はdunghill)」と呼んでいる。

スネイプが魔法使いでありながらマグルの町に住んでいるのは、そこが父の家だったからだろう。スネイプの父がマグルだとわかるのは、30章になってからだけれど。
もしかすると母のアイリーンは、自分の魔法を封じてマグルの世界で暮らしたのだろうか。夫や近所の人の前では自分の魔法を封じながら、才能ある息子にはこっそりいろいろと教えたのだろうか?

ナルシッサはスネイプを訪ねようとしている。ベラトリックスはそれを止めようと、ここまで追いかけてきた。
ふたりは緊迫したやりとりをしながら、スネイプの家に着く。
そこにはスネイプとピーターがいた。ピーターはスネイプにもヴォルデモートにも「ワームテール」と呼ばれているようだ。
スネイプとワームテールのやりとりから、ヴォルデモートが「スネイプを補佐せよ」と命じてふたりがいっしょにいることがわかる。また、スネイプとワームテールの仲が悪いこともわかる。
スネイプから見れば、ワームテールはリリーの死の直接の原因を作った男だ。ワームテールにとっては、闇の帝王の復活の功労者は自分なのに、スネイプの方が帝王の信頼を得ているのは不快だろう。ヴォルデモートはふたりの仲がよくないことを知った上で、お互いに牽制させようと同居させたのかも。

スネイプの部屋の描写で印象的だったは「壁がびっしりと本で覆われている」だった。スネイプはハーマイオニー同様、勉強家なのだろう。
スネイプはワームテールに、屋敷妖精が作ったワインを持ってくるように言う。ちょっと驚いた。スネイプの家に屋敷妖精がいるとは思えない。屋敷妖精というのは大きな屋敷や城にいるとロンが言っていたから。ワインを作ったのはホグワーツの屋敷妖精で、スネイプは何本かを自宅へ持ち帰ったのだろうか。

ナルシッサはスネイプへの依頼を話し始めたが、ベラトリックスが何度もじゃまをするので、先にベラトリックスの疑問に答えることにした。
ヴォルデモートが賢者の石を手に入れようとしていたとき、スネイプはなぜ邪魔をしたのか。この質問にスネイプは、クィレルがヴォルデモートの命令で動いているとは知らなかったので、クィレルのじゃまをしただけだと答える。「炎のゴブレット」で墓場に招集がかかったときは、2時間遅れて駆けつけたと言う。ダンブルドアの命令に従ってスパイしていると、ダンブルドアに思い込ませるために。
「炎のゴブレット」のラスト近くで、ダンブルドアがスネイプに言っていたせりふの意味がここでやっと読者にわかる。こういう伏線回収が、この作品の魅力だ。
ベラトリックスの数々の疑問に答えながら、スネイプは強調する。闇の帝王も当然同じ質問をした。その答えに帝王が満足しているから、自分は無事でいられるし、帝王に信頼されてもいるのだと。

「(騎士団の)本部がどこにあるか明かせないと、おまえはまだ言い張っているな?』
「『秘密の守人』は我輩ではないのだからして、我輩がその場所の名前を言うことはできない。その呪文がどういう効き方をするか、ご存知でしょうな?」
このやりとり、ぎょっとさせられる。
もし守人以外の者が秘密を口外したら、どうなるのだろう? すぐに死が訪れるのだろうか? これについての説明はどこにもない。