ハリー・ポッターと謎のプリンス(第3章)

第3章でやっと主人公ハリーが登場する。それも、最初は第三者視点の描写で始まり、数ページ読むとハリー視点の描写になる。もっともこの切り替えは巧みで、読んでいて違和感はない。
三者視点の描写は、日刊予言者新聞の記事から始まる。ハリーの部屋に新聞が散らかっていて、その新聞にこういう記事がある、という書き方だ。
ハリー・ポッター、選ばれし者?」という見出しの記事は、魔法省の予言の間で騒ぎがあったこと、ハリーがヴォルデモートを排除できるただひとりの人間だという予言が存在することを、不確かな情報として報じている。

散らかっている雑多な物の中に、ダンブルドアの手紙があった。
ダンブルドアが自らプリベット通りへハリーを迎えにくる。そしていっしょにウィーズリー家へ連れていくという内容だった。「金曜の午後11時に」と書かれている。
他人の家を訪問するには非常識な時間じゃないだろうか? 魔法使いであろうがマグルであろうが、それは同じだろう。それにこのあとの話を読んでも、ダンブルドアがこの時間に来なければならない理由は書かれていないのだ。

眠っていたハリーが目を覚まして窓の外を見ると、ダンブルドアが歩いてくるのが見えた。「長いマントをひるがえし」と書かれている。今は7月のはずなのに、マントとは? ま、日本の夏ほど暑くはないだろうけれど。
玄関の呼び鈴が鳴り、ダンブルドアが現れた。予告を受けていなかったダーズリー一家にとっては迷惑な話だ。いや、たとえハリーからダンブルドアの訪問を聞いていたとしても、夜の11時に魔法使いが訪問するというのは迷惑きわまることだろう。
ダンブルドアは勝手に居間に入り、勝手に座った。こういうダンブルドアの態度は、「ダーズリーの家族はハリーを虐待していたけしからぬ存在」という意識の読者には愉快な描写だったかもしれない。しかしわたしは、「賢者の石」以来バーノンやペチュニアに同情しているので、ダンブルドアのふるまいをとても不愉快に思った。

ダンブルドアは台所から顔を出したペチュニアに「これはペチュニアとお見受けする」「お手紙をやりとりいたしましたのう」と言う。
このせりふで、ダンブルドアペチュニアは初対面とわかる。「手紙をやりとりした」というせりふの意味がわかるのは「死の秘宝」33章になってからだ。少女時代のペチュニアダンブルドアに手紙を書き、返事を受け取っていた。

居間の椅子に落ち着いたダンブルドアは、空中から瓶とグラスを取り出した。瓶が勝手に傾いてグラスに蜂蜜酒を入れた。しかしダーズリー家の三人は手にとろうとしなかった。わたしは当然だと思う。初対面の人物が不思議な術で出現させた飲み物を、抵抗なく飲む方が不思議だ。「お飲みくださるのが礼儀というものじゃよ」とダンブルドアは言うが、わたしだって飲まないだろう。

ダンブルドアはハリーに、シリウスの遺言が見つかり、財産のすべてをハリーに残したと話す。わたしはちょっと驚いた。自分がいつ死ぬかもしれないと思って遺言を残すような周到さがシリウスにあったのが意外に思えた。シリウスは軽はずみな人間だというのがわたしの認識だったから。
グリモールド・プレイスの屋敷は、ブラック家が代々所有していたので、遺言があっても確実にハリーのものになったかどうかわからない。血縁者の中でいちばん年長のベラトリックスの物になっている可能性がある。ただ、確かにハリーが相続したのかどうか確認する方法はある。

ダンブルドアは杖を振って、クリーチャーを呼び出した。
ここでもわたしは驚いた。ブラック家の屋敷妖精を、なぜダンブルドアが呼び出せるのか? ダンブルドアがそれだけ強力な魔法を知っているということか、それとも必要があればダンブルドアがクリーチャーを支配できるよう、あらかじめシリウスと契約していたのか?
クリーチャーはハリーに仕えたくはない、ベラトリックスこそ主人だと主張する。

ハリーがクリーチャーに「黙れ」と命令すると、クリーチャーは声が出せなくなった。
これで、ハリーがグリモールド・プレイスの正当な所有者だと確認できたことになる。屋敷妖精にとってその屋敷の主人の命令は絶対なのだから。
ダンブルドアの助言で、クリーチャーはホグワーツに行って他の屋敷妖精といっしょに働くことになり、ハリーはほっとした。
クリーチャーは「死の秘宝」でハリーに心服するようになるが、それはあとの話だ。

ダーズリー家を我が家と呼べる間はハリーは守られるということは、前巻ですでに語られた。その魔法はハリーが17歳になった瞬間に効果を失うことが、ここのダンブルドアのせりふではっきりする。

ハリーは大急ぎで荷物をまとめる。ダンブルドアがほんとうに迎えにきてくれるのか確信が持てなかったので、トランクに必要なものを詰めていなかったのだ。その気持ちはわかるけれど…
ダンブルドアといっしょにダーズリー家を出ると、ダンブルドアは杖を振って、ハリーのトランクとヘドウィグのかごをウィーズリー家に飛ばした。この魔法はとてもうらやましい。荷物を持ち歩かなくていいのだから。ま、マグルには宅配便があるけれど。