ハリー・ポッターと謎のプリンス(第4章)

ダーズリー家を出たダンブルドアとハリーは、プリベット通りを歩いていた。
ここを読んでいて、学期末に校長室で大暴れしたことをハリーがなぜ謝らないのか、不思議だった。「気まずい思い」をしたと書かれているだけだ。こんなふうに、ハリーには何度もイライラさせられる。ローリングさんは意識してハリーを生意気な子に描いているのだろうか。

通りの端の人目のないところで、ダンブルドアはハリーを連れて姿くらましをした。
「四方八方からぎゅうぎゅう押さえつけられている。息ができない。鉄のベルトで胸を…」という部分の詳しい描写がおもしろい。姿くらましといっても、一瞬でパッと移動できるわけではないのだ。魔法で姿を消したり瞬間移動したりする描写はいろいろな物語に書かれているけれど、ここまで具体的な過程を書いたのはローリングさんが初めてかもしれない。

ふたりが姿あらわしでやってきたのは、バドリー・ババートンという名の村だった。おそらく架空の名前だと思うが、ここでも原作者は頭韻にこだわっている。
ここで初めてダンブルドアは、この村にやってきた目的を明かす。
ここでのせりふ「またしても、先生がひとり足りない」という言い方は、作者がしかけた小さなトリックだ。ハリーも読者も、「闇の魔術に対する防衛術」の教師を依頼するのだと思い込んでしまう。この思い込みが、プリンスの教科書のエピソードにつながってくる。

ダンブルドアは一軒の家の前で「ここじゃよ」と言って立ち止まった。
しかし様子がおかしい。玄関の蝶番が壊されている。中に入ってみると、部屋も荒らされていた。
ダンブルドアが肘掛け椅子のクッションを杖でつつくと、椅子は太った老人の姿になった。
老人は元ホグワーツの教師、ホラス・スラグホーンだった。ダンブルドアの訪問に気づき、死喰い人に襲われたように装ったが、見破られてしまったのだ。

荒らされた部屋は、ダンブルドアとスラグホーンのふたりが魔法で元どおりにした。この魔法はうらやましい。
スラグホーンとダンブルドアの会話から、いろいろなことがわかる。スラグホーンがかなりの能力を持っていること。ヴォルデモート一味がスラグホーンを味方に引き入れようとしていて、スラグホーンが巧みに逃げ回っていること。この家はマグルの家で、マグルが休暇中で留守のところをスラグホーンが勝手に使っているらしいこと。ダンブルドアが誘いにくることも予想していたが、ホグワーツには戻りたくないと思っていること。

ダンブルドアはわざと席をはずす。
スラグホーンは、リリーがお気に入りの生徒だったと話す。「教え子の中でもずば抜けた一人だった」「魅力的な子だった」と。
この会話の中で、「ブラック家は全員わたしの寮だったが、シリウスはグリフィンドールに決まった」というせりふが出てくる。するとベラトリックスはもちろん、ナルシッサもアンドロメダもスリザリンだったことになる。
スラグホーンは、現役時代に教えた生徒の中の有名人の名を次々にあげ、人脈の自慢を始める。

ふたりがいる部屋に戻ってきたダンブルドアは、スラグホーンをあきらめたふりをし、ハリーを連れて出て行こうとする。
追いかけるようにスラグホーンは「わかった、わかった、引き受ける」と言い、ダンブルドアはこの訪問の目的を果たした。ハリーを連れて行ったのは、ハリーという有名人とつながりができる利点をスラグホーンに実感させるためだったのだ。
「ではホラス、9月1日にお会いしましょうぞ」というせりふにちょっとびっくり。教師というのは、新学期が始まる前に学校にきて、教師どうしの打ち合わせやら授業の準備やらをするんじゃないのか?

ダンブルドアとハリーは、再び姿くらましでロンの家の近くへ飛んだ。
ウィーズリー家に入る前に、ダンブルドアはほうき小屋にハリーをいざなう。予言については秘密にしてほしいが、ロンとハーマイオニーには話してもよいということ、この学期にダンブルドアの個人教授をすることをハリーは知らされる。

ハリーがウィーズリー家にいる間、魔法省によるさまざまな安全措置がこの家に施されていて、ウィーズリー夫妻には不便をかけている。しかし夫妻はハリーの安全を第一に考えて、不便があっても気にしていない。このダンブルドアのせりふには感動した。
「君自身が危険に身をさらすようなまねをすれば、二人の恩を仇で返すことになるじゃろう」というダンブルドアの警告は当然だ。確かに前巻と違って、この巻のハリーはあまり危険な行動をしていない。正体のわからないプリンスの呪文を使った以外は。