ハリー・ポッターと謎のプリンス(第5章)

ハリーはダンブルドアといっしょに、ウィーズリー家の裏口に立った。
「遠くの鳥小屋から、コッコッと鶏の低い眠そうな鳴き声が…」と書かれている。魔法使いも鶏を飼うことがあるのだ。「炎のゴブレット」や「死の秘宝」では、魔法使いが孔雀を飼っている描写がある。でも貧乏なウィーズリー家が鶏を飼っているのは、ペットではなく、卵を手に入れるなど実用のためだろう。

出迎えたのはモリー・ウィーズリーだった。
そこにトンクスもいた。トンクスは青白い顔をして、以前はあざやかな色だった髪も色あせている。あとで考えれば、ルーピンに何度アタックしてもうまくいかない時期だったのかもしれない。
トンクスとダンブルドアは出ていって、戸口から数歩離れたところで姿を消した。姿くらましをしたのだろう。

モリーはハリーの食事の世話をしながら、夫のアーサーが昇格して、部下が十人いるという話をする。これまではヒラ職員だったのだろう。
アーサーは「偽の防衛呪文ならびに保護器具の発見ならびに没収局」の局長なのだという。局長の部下が十人だけとは、イギリス魔法省の規模は日本の自治体で言えば小都市の市役所程度のものらしい。
それとも「局」という訳語がまずいので、「課」と訳すべきところなのか。それなら部下が十人でも自然だ。

モリーは洗濯物籠の上の時計に目をやった。家族全員の名前がそれぞれの針に書いてある時計だ。9本全部の針が「命が危ない」を示している。
「今は、誰もが命が危ない状況なのでしょうけれど…(中略)でも、ほかにこんな時計を持っている人を知らないから、確かめようがないの」とモリーは言う。
魔法界のアイテムには、一点ものが多いようだ。ペンシーブもダンブルドアしか持っていないし、あとで出てくる「姿をくらますキャビネット」も、一組しかないからこそドラコが必死で修理していたのだろう。

アーサーの針が「移動中」になり、間もなく裏口の外で声がした。アーサーとモリーが合い言葉のやりとりをしたあと、アーサーはやっと家に入れた。
アーサーのしごとの話を少し聞いたあと、ハリーは3階のジョージとフレッドの部屋に行って眠った。双子はダイアゴン横町の店に寝泊まりしていて、こっちの部屋は空いていたのだ。

目が覚めると、部屋にはロンとハーマイオニーがいた。
ハリーがダンブルドアといっしょにスラグホーンを訪ねたことを言ったとき、ロンは「なんだ」「僕たちが考えてたのは--」と言いかけ、ハーマイオニーの目配せで話をそらせた。ロンは何を言いかけたのだろう? 予言についてだろうか?

パーシーが家を出たままの件について、ハーマイオニーが「ダンブルドアがおっしゃったわ。他人の正しさを許すより、間違いを許す方がずっとたやすい」と言う。おもしろいフレーズだと思う。なるほどだ。
ハリーはここで、予言の内容をロンとハーマイオニーに話した。どちらか一方しか生き残れないことを。

フラー・デラクールもこの家にいた。
ジニーとモリー、それにハーマイオニーまでがフラーに反感を持っているのが不思議だ。ビルが大切に思っている女性なのだから、もっと好意的に見られないのか?
特にジニーが「アンブリッジ以下」と評価するのはまったく理解できない。ブラザー・コンプレックスによる嫉妬があるとしても、不自然すぎる。

この日は、OWL試験の結果が届く日だった。
ハーマイオニーが、過剰なまでに成績に神経質になっている描写がある。ハーマイオニーは小学生時代から、両親によい成績をとるよう望まれていたのだろう。
三羽のふくろうがウィーズリー家に飛んできて、窓から台所に入り、テーブルの上に並んだ。ハリーたち三人はそれぞれの手紙をふくろうの足からはずし、開封した。

ここで、OWL試験の判定基準がやっと具体的にわかる。
 O(優)大いによろしい
 E(良)期待以上
 A(可)まあまあ
ここまでが合格。
 P(不可)よくない
 D(落第)どん底
ということになっている。

ハリーの成績は、
 闇の魔術に対する防衛術:優
 魔法生物飼育学、呪文学、薬草学、魔法薬学、変身術:いずれも良
 天文学:可
 占い学:不可
 魔法史:落第
だった。

モリーがロンの成績について、「7ふくろうだなんて、フレッドとジョージを合わせたより多いわ」と言っているのがおもしろい。
ハーマイオニーは優が9科目、良が1科目。良になったのは「闇の魔術に対する防衛術」だった。3年生の学期末試験のときのように、ボガードにうまく対抗できなかったのかもしれない。