ハリー・ポッターと謎のプリンス(第6章後半)

ウィーズリー夫妻とジニーは教科書を買いに書店へ向かい、ハリーたち三人はハグリッドといっしょにマダム・マルキンの洋装店にと二手に分かれることになった。
マダム・マルキンの店にはドラコとナルシッサがいた。ハリーがナルシッサを初めて見たのは「炎のゴブレット」のワールドカップの時だった。これが二度目ということになる。

ここでドラコがハーマイオニーを「穢れた血」と呼び、ハリーとロンは杖を取り出して店内に向ける。
ドラコとハリーたちがもめるときは、たいていドラコはことばで嫌みを言うだけで、先に手を出すのはハリーかロンのことが多い。そこにドラコの育ちの良さが表れているようにも思う。
ここではさいわい、マダム・マルキンが両方をたしなめ、乱闘にならずに済んだ。「穢れた血」という表現にも、それに暴力で反応しようとする行為にも批判的で、彼女の公正な姿勢がよくわかる。
結局、ドラコは出て行きざまにわざとロンにぶつかってはいるが。

ローブを買って店の外に出た三人は、ハグリッドといっしょに歩き、やがてウィーズリー夫妻・ジニー組と合流した。
「ヘドウィグとピックウィジョンのためにふくろうナッツの大箱をいくつも買った」と書かれている。ふくろうは肉食だからナッツを食べるはずがない。「ふくろうナッツ」という商品名の、ドッグフードのような製品なのだろう。

一行はいよいよ、フレッドとジョージが開店した店にやってきた。
「不死鳥の騎士団」で、93番地だと言っていたはずだが、ここでモリーが「92番地……94……」と数えるのはちょっと変だ。はでな店だから、通り過ぎるはずがない。もし通りの片方が奇数番地、もう片方が偶数番地になっているなら、モリーが偶数側をみているのも変だ。

他の店が閉店していたりポスターで埋まっていたりする中、ウィーズリー・ウィザード・ウィーズだけはきらびやかで派手で、ショーウインドウでは商品が跳ねたり光ったりしていて、店の中はお客で満員だった。フレッドとジョージは店にいた。

この場面でわたしが興味を持ったのは、双子が「まじめ路線」と呼んでいる商品群だった。「盾の帽子」の評判がよいので「盾のマント」「盾の手袋」などを開発し、量産しているというのだ。最初はいたずら用に作ったが、魔法省から実際の防御用に注文がきているという。
ストーリーに直接関係はないが、こういう細かい設定にリアリティが感じられるところ、わたしは大好きだ。
ここで双子がハリーに説明する「インスタント煙幕」と「おとり爆弾」は、後に再登場する。

たまたま、窓の外をドラコ・マルフォイが歩いていた。
ハリーは透明マントを取り出し、ロンとハーマイオニーをうながした。ハーマイオニーはちょっとためらったが、結局三人とも透明マントに入ってドラコを追った。
ドラコはノクターン横町へ移動し、ボージン・アンド・バークスの店に入った。ロンはポケットから「伸び耳」を取り出し、ドラコと店主の会話を盗み聞きした。
姿を隠して人のあとをつけるのも、盗聴まがいのことをするのも卑怯だとわたしは思うが、ドラコ相手ならどんな卑怯なことをしようとかまわない、とハリーたちは考えているらしい。

ドラコはフェンリール・グレイバックの名前を出して、何かをするように店主をおどかしていた。しかし具体的な内容はわからなかった。
ハーマイオニーが店に入って、口実を設けてドラコの意図を聞き出そうとしたが、失敗に終わった。
三人はフレッドとジョージの店に戻り、ずっと店にいたふりをした。

あとでわかるが、このときドラコは「姿をくらますキャビネット」について店主と話していた。ひとつを店に取り置き、もうひとつの故障を直す方法を聞こうとしていたのだ。対になっているもうひとつというのは、元々ホグワーツに置かれていて、フレッドとジョージがモンタギューをつっこんだあの「飾り棚」なのだろう(「不死鳥の騎士団28章)。
それにしても、相変わらず訳語の統一に無神経な翻訳者だ。まともな出版社であれば、訳語の不統一は編集部員や校正担当者がチェックできるはずなのだが。