ハリー・ポッターと謎のプリンス(第8章)

ペトリフィカス・トルタスの呪文は、相手の自由を奪う。「ハリーは筋一本動かせなかった」とあるが、これは「毛筋一本…」という表現を翻訳者が間違って覚えていたのだろう。まともな出版社なら、編集者や校正担当者が気づいて直すところだ。
声すら出せなくなる、つまり随意筋は使えなくなるが、呼吸に使う筋肉や心臓の筋肉には影響しないらしい。そうでないと死んでしまうから、当然ではあるが。

動けない、声も出せない、透明マントのせいで自分の姿は誰にも見えない。万事休すかと思われたとき、いきなり透明マントがはがされた。トンクスだった。
トンクスの足音が聞こえなかったのが不思議だが、トンクスがいきなり出現する方が効果的だと原作者は思ったのだろうか。
ドラコは、自分がハリーにしていることを外から見られないよう、窓のブラインドを降ろしていた。しかしそのおかげで、トンクスが不自然さに気付き、このコンパートメントを調べにきたのだ。
トンクスとハリーは、動き出した列車から飛び降りた。

トンクスが杖を振ると、「とても大きな銀色の四足の生き物が現れ、暗闇を矢のように飛び去った」と書かれている。校門に着いたときスネイプが「君の新しい守護霊は興味深い」と言う。これがスネイプの守護霊の大きなヒントになるというのだが、ヒントがぼんやりすぎて、わたしには全部読み終わってもピンとこなかった。

話を戻して…… 
いつもの馬車はもうなかったので、トンクスとハリーは駅から学校まで歩いた。この距離が小説の記述では具体的にはわからない。「やっと門柱が見えたときには、ハリーは心からほっとした」と書かれているから、3-4キロというところか。「ハリー・ポッター映画大全」には原作者が書いた略図が載っていて、城も湖も駅も描かれているが、縮尺がわからないからあまり参考にならない。

校門に着いて、ハリーは「アロホモーラ」の呪文で扉を開けようとしたが、トンクスは「そんなもの通じないよ」「ダンブルドア自身が魔法をかけたんだ」と言う。
呪文には「上には上」があるのだ。アロホモーラは掛けがねや鍵で物理的に開けられないドアを魔法で開ける呪文だが、そのアロホモーラを効かないようにする魔法もあるのだ。ムーディの目が透明マントを見通せるのも「上には上」の事例のひとつなのだろう。

校門の内側から現れたのはスネイプだった。スネイプは杖を取り出してかんぬきを叩いた。それだけで、門にからんでいた鎖が動いて門が開いた。スネイプがさらに上の魔法を使ったというよりは、ダンブルドアから開け方を知らされていたと解釈するのが妥当だろう。
校門から城の入り口まで、スネイプはネチネチとハリーに嫌みを言い続けた。しかし、読んでいて不愉快にはならなかった。むしろ、ハリーに対して「いい気味だ」という思いがわきあがってくる。ハリーの遅刻の原因を作ったのはハリー自身なのだし、透明マントで身を隠して盗み聞きするという卑劣なことをしたのだから、むくいを受けるのは当たりえ、とわたしには思える。

大広間に入ると、組み分け儀式はとっくに終わり、夕食も終わりかけていた。チキンとポテトチップをとろうとしたハリーの目の前からごちそうが消え、代わりにデザートが出現した。
ダンブルドアのあいさつが始まった。ここで、試合の解説者の新人を応募しているという話がでてきてちょっとおどろいた。解説者って、応募で決めていたのか。

ここでスラグホーンが新しい教師として紹介されたが、ハリーたちが驚いたのは、スラグホーンが魔法薬学を教えるということだった。この科目が、彼の元々の専門だったのだろう。確かにダンブルドアは、スラグホーンが何を教えるかを言わなかった。「とらぬふくろうの羽算用はせぬことじゃ」という警告はしていたが。
そしてスネイプは、闇の魔術に対する防衛術を教えると、ダンブルドアが宣言した。この時のハリー、ハーマイオニー、ロンの会話がおもしろい。スネイプがクィレルのように死ねばいいとはっきり口にするハリー、それをとがめる口調のハーマイオニー、一年後に元の科目に戻るだけかもしれないというロン。しかし誰も、一年後にスネイプが校長になるという予想はできなかった。当然ではあるが。

ダンブルドアは、ヴォルデモートが力を強めていることや、生徒たちも安全措置をよく守るようにという注意を話してあいさつを終わった。
グリフィンドール寮へ移動する途中でハグリッドに会った。ハグリッドは、グロウプと話していて組み分け儀式に遅れたのだという。「いまじゃ山ん中に新しい家があるぞ。ダンブルドアが設えなすった」と言っているから、グロウプはもう秘密の存在ではなくなったのだ。少なくともダンブルドアはグロウプのことを知っていて、好意的に扱ってくれているということになる。