ハリー・ポッターと謎のプリンス(第13章後半)

ハリーはダンブルドアの記憶の中に入った。
「若いダンブルドアの長い髪と顎髭は鳶色だった」と書かれている。ヨーロッパの小説では、人物の描写に目の色や髪の色が書かれることが多いのだ。
場所はロンドン。ダンブルドアはみすぼらしいが清潔な建物に入っていく。そこが孤児院であることは、院長のミセス・コールとの会話の中で示される。

ダンブルドアは、この孤児院にいるトム・リドルをホグワーツ校に入学させたいと話す。当然ながら魔法学校だという説明はしないが、ホグワーツの名前だけは出す。しかしコール院長は納得しない。「なぜ、トムに関心を?」「誰が登録を?ご両親が?」と食い下がる。ま、当然だろう。
そこでダンブルドアは杖を取り出し、そこにあった白紙に向けて杖を振る。
この杖は、ニワトコの杖ではない。ダンブルドアがグリンデルバルトと決闘して杖を勝ち取るのはこれから7年ほど先のことになるのだから。
ともかく、ダンブルドアは魔法で書類を作り出し、ミセス・コールに見せる。彼女は「すべて完璧に整っているようです」と納得する。
魔法界というのは怖いところだ。マグルの心理をあやつるぐらいはお手のものなのだから。ダンブルドアが今使った魔法が、もし悪事に使われたらと思うとぞっとする。

ミセス・コールはダンブルドアの質問に応えて、トムの生い立ちを話し始めた。
晦日の夜、ひとりの女性がよろめきながらここへやってきた。1時間後に赤ん坊が生まれた。そのさらに1時間後に女性は死んだ。死ぬ前に、父親の名前のトムと祖父の名前のマールヴォロをとって名前をつけてほしい、姓はリドルだと言い残した。その後、誰もこの子を探しにこなかったので、トムはずっとこの孤児院にいる。

それからミセス・コールは、トムが変なこどもだと打ち明けた。トムのまわりでいろいろなことが起こる。トムが他のこどもをいじめていることはほぼ確実なのだが、証拠がない。
ここで、こどもたちが遠足に行った洞窟の話も出てくる。

ダンブルドアはミセス・コールの案内で、トムの部屋を訪れる。
ここで「ハリーと二人のダンブルドアが部屋に入ると、ミセス・コールがその背後でドアを閉めた」と書かれているが、この記述では彼女が部屋の外へ出たのかどうかわからない。ただ、あとの描写で、出ていったのだろうと想像できる。

ここでのトムとダンブルドアのやりとりは、とてもおもしろい。
他人をたやすく信用しない性格、他人をいじめることに喜びを覚える性格、しかも自分が犯人だという証拠を見せない狡猾さなどが、この年齢ですでに見てとれる。それらのことを原作者は直接描写するのではなく、トムとダンブルドアの会話の中で浮かび上がらせる。さすがだ。
自分が特別な存在だということを、トムは認識していた。しかしそれが魔法だとは知らなかった。自分が魔法使いだと知って、トムは興奮した。

自分の名前がトムという平凡なものであることを嫌っていることも、ここでわかる。「秘密の部屋」で、マグルの父親の名前を使いたくないからヴォルデモートと名乗ったと彼は言っていたが、父親がマグルだと知るずっと前から、トムは自分の名前が嫌だったのだ。

ハリーとダンブルドアはペンシーブを出て、今見てきたことを話し合う。
トムは戦利品を集めるのが好きだった。「このカササギのごとき蒐集傾向を覚えておくがよい」というダンブルドアのことばは、いずれ分霊箱について説明するときの予備知識になるのだ。

10章での第一回の個人授業のときは、ダンブルドアのテーブルの上にゴーントの指輪があった。しかし、今度は何も載っていなかった。
このとき、指輪はすでにスニッチに仕込まれていたのだろう。
「死の秘宝」で登場するダンブルドアの遺言と、三人に遺贈される品々は、この時点ですでに用意されていたのだろうと思う。自らの命がもうすぐ終わることを、ダンブルドアは知っていたのだから。