ハリー・ポッターと謎のプリンス(第15章)

「クリスマスが駆け足で近づいてくる。ハグリッドはすでに、例年の大広間用の12本のクリスマス・ツリーを…」と書かれている。
この物語には、宗教はいっさい出てこない。神やキリストは魔法の世界と相容れないのだろう。しかし、クリスマスの行事はしっかりある。イースター休暇と呼ばれる休みもある。多くの日本人と同じように、クリスマスは宗教行事でなく、ただの楽しいイベントなのだ。

ハリーが通りかかるたびに、ヤドリギの下に女生徒が集まってくるという描写もある。
ヤドリギの下で恋人同士がキスをするという言い伝えは、イギリスでは説明不要なのだろう。しかし日本語に翻訳するときは、注なりあとがきなりで説明を入れておいてほしい。この人のあとがきは、自分語りばかりで、読者への心遣いは皆無だ。

ロミルダ・ベインがハリーに惚れ薬を飲ませようとしていると、ハーマイオニーがハリーに警告する。フレッドとジョージは、通販で惚れ薬の注文があると香水や咳止めに偽装して薬を送ってくるというのだ。ハリーに惚れ薬を使おうとしている女生徒たちの目的は、スラグホーンのクリスマスパーティにハリーから招待されることだ。早く相手を決めてしまえばいいと、ハーマイオニーが親身に忠告してくれるが、ハリーはぐずぐずしていた。本心はジニーを誘いたいが、言い出せなかったのだ。

休暇前の最後の授業は変身術だった。「自分の眉の色を変える術を、鏡の前で練習していた」と書かれている。
変身術というのは、ネズミをカップに変えるような魔法と、自分が姿を変える魔法との両方をさすのだろう。「呪いの子」ではハリーがヴォルデモートに姿を変えるが、六年生でやっと眉の色を変える程度の練習を始めたハリーだから、自分が他人に化けられるようになるには、その後何年もの訓練をしたに違いない。

ハリーはルーナと出会ったとき、衝動的にルーナをクリスマスパーティに誘った。
「単なる友達として」と念を押して。つまり、特定のガールフレンドとしてではないとことわったのだ。ルーナはとても喜んで承知した。

パーティの時間がきて、ハリーはルーナといっしょにスラグホーンの部屋に行った。
スラグホーンの部屋は広くて、美しく飾られていた。学校外から来たと思われるお客も何人かいた。
ここで、屋敷妖精が食事を運んでいるようすが描写されている。通常、屋敷妖精は人目につかないようにたちまわるはずだが、スラグホーンは特別に許したのだろう。

出席者の中に、吸血鬼のサングィニがいた。
吸血鬼が登場したのだから、彼が何かストーリーにからんでくるのだろうと予想したのだが、結局彼の登場はこの場面だけだった。ひょっとして「ファンタスティック・ビースト」シリーズのどこかに今後出てくるのだろうか?

スラグホーンはハリーの魔法薬を作る才能をほめそやす。
このとき、スネイプはハリーのカンニングに気づいていたのではなかろうか。
「『生ける屍の水薬』--一回目であれほどの物を仕上げた生徒は独りもいない--セブルス、君でさえ」
このスラグホーンのせりふから、スネイプがハリーの秘密に気づくことは難しくない。それに、スネイプは開心術も使える。
ここでスネイプが沈黙を守ったのは、ダンブルドアに頼まれたからではないだろうか。ハリーがスラグホーンのお気に入りになることが、ダンブルドアの計画には必要だったから。

そこへフィルチがドラコ・マルフォイを連れてくる。スネイプはドラコを連れて部屋を出る。
ハリーはそのあとを追い、ふたりの会話を盗み聞きする。
その会話から、スネイプがドラコを手助けしようとしているが、ドラコが拒否し続けているのがわかる。スネイプがドラコの母親と「破れぬ誓い」をしたことを、ここでハリーは知る。
ドラコが何か秘密の計画を持っていることは、ここではっきりした。しかし、それがダンブルドア殺害計画であることを、ハリーはまだ知らない。