ハリー・ポッターと謎のプリンス(第17章)

クリスマス休暇が明けた。
生徒たちがホグワーツに戻る日は「年が明けて数日がたったある日の午後」と書かれている。クリスマス休暇は、日本の学校の冬休みとほぼ同じ長さなのだろう。

一年前のクリスマス休暇明け、ハリーたちはナイトバスでグリモールド・プレイスからホグワーツへ移動した。今年は煙突飛行ネットワークだった。ある暖炉と他家の暖炉とを結ぶのは魔法省のしごとで、今回に限り魔法省がホグワーツ校と生徒の家々とをネットワークで結んでいたのだ。ヴォルデモート復活がはっきりしたので、生徒の安全を守るための特別措置だった。
ハリー、ロン、ジニーの三人は、ウィーズリー家の暖炉からマクゴナガル先生の部屋の暖炉へと移動した。すでに太陽が沈みかけていた。スコットランドは緯度が高いし、1月はじめの昼は短いのだろう。

次の日、姿あらわし練習コースの告知が寮の掲示板に貼り出された。
「17歳になった者、あるいは8月31日までに17歳になる者は受講する資格がある」と書かれている。
もちろん、この貼り紙は毎年貼り出されていただろう。ハリー視点で書かれている物語なので、まるで今年初めてのような印象を与えているだけだ。
ちょっとおどろいたのは「コース費用 12ガリオン」と書かれていることだ。杖が7ガリオンだったことを考えれば、この講習費用は高すぎる。ロンはこの講習費を払えるのだろうか? しかし、ロンがこの支払いを心配している記述はなく、ためらわずに名前を書き込んだようだ。

その夜、ダンブルドアの個人授業のため、ハリーは校長室へ出かけた。
ハリーはさっそく、スネイプとドラコの会話の内容をダンブルドアに訴えた。だがダンブルドアの答えは
「君がわしに打ち明けてくれたことはうれしい。ただ、その中にわしの心を乱すようなことは、何一つない」だった。
ハリーは心中、不満たらたらだ。ダンブルドアがこの時点で、ドラコのすべてを知っているということは「死の秘宝」33章で初めてわかる。

ダンブルドアはトムの話を始めた。彼の頭に触れるや否や帽子がスリザリンに入れたこと、入学直後から彼は教職員すべてに好感をもって迎えられたこと、リドルが生徒たちの何人かを取り巻きとして支配し始めたこと、父親の痕跡を必死に探したが、結局父親がホグワーツにいたことはないと知ったこと、その後マールヴォロという名前を手がかりに自分とゴーント家の関係を調べたことなどである。

16歳の夏、トムは毎年夏休みに戻っていた孤児院を抜け出し、ゴーント家を探しに出かけた。大晦日生まれのトムの16歳というと、6年生と7年生の間の夏休みということになるのかな。
ここまで話したダンブルドアは、記憶をペンシーブに入れて、ハリーといっしょにペンシーブに入る。

そこはゴーントの家の中だった。これはモーフィン・ゴーントの記憶だったのだ。以前にオグデンの記憶の中で見たときより、家はずっと荒れて汚れていた。
ドアが開いて、トム少年が入ってきた。トムとモーフィンは蛇語で会話をした。モーフィンが問わず語りに話す内容から、トムはモーフィンの妹が自分の母親であり、父親のトム・リドル・シニアがこの村に戻っていることを知る。自分が父親そっくりであることも。

モーフィンの記憶はいきなりの暗転で途切れていた。このあとのことを、モーフィンが覚えていなかったからだ。
次の朝、リドルの館では3人の住人が傷一つないのに死んでいた。マグルの警察には死因がわからず、謎のままだった。しかし魔法省は、これがアバダケダブラの呪文によるものだとすぐに判断した。谷をへだてて住んでいるモーフィンが疑われた。モーフィンはすぐに自供した。犯人しか知り得ない細部に至る詳しい供述をしたのだ。モーフィンの杖が殺人に使われたこともはっきりした。
「炎のゴブレット」第1章の事件の真相が、やっとここでわかる。気の長い伏線だ。

ダンブルドアがアズカバンにいるモーフィンを訪ねたのがいつ頃か、はっきりしない。ハリーが入学するより前のことなのか、それともつい最近のことなのか。
ともかくダンブルドアは、モーフィンと面会し、巧みな開心術を使ってほんとうの記憶を引き出した。というよりも、殺人の記憶が偽物だとつきとめたのだ。トム・リドルがモーフィンの杖を奪い、父と祖父母を殺したあとで、モーフィンに偽の記憶を植え付けた。
ダンブルドアはモーフィンの釈放を魔法省に働きかけたが、魔法省が結論を出すまえにモーフィンは死んだ。
この物語のモーフィンの出番は少ないが、登場したときは必ず蛇語で話している。ダンブルドアとモーフィンの会話も蛇語だったのだろうか? トムは生まれつき蛇語を話せたが、ダンブルドアは学習によって蛇語を習得したと、原作者がどこかで言っていた。

ダンブルドアは、もうひとつの記憶をペンシーブに入れ、ハリーといっしょにその記憶に入った。
今度は、スラグホーンの記憶だった。いや「記憶まがい」だった。
スラグホーンは今よりずっと若いが、場所は今のスラグホーンの部屋だった。15、6歳の少年が何人かいる。トムもいる。そしてトムの手には、ゴーント家の指輪がある。トムは父親と祖父母を殺したあの夜、指輪を盗んで持ち帰っていたのだ。トムはこの指輪の由来をモーフィンから聞いたのだろうか? あるいはモーフィンの心を読んで、これがスリザリンゆかりの品と知ったのだろうか?

記憶の途中で霧がかかったようになり、会話も不自然になった。そして最後に「ホークラックスのことは何も知らんし、知っていても君に教えたりはせん!」というスラグホーンの大声がひびいた。

この記憶は改ざんされていると、ダンブルドアは言う。
そして、スラグホーン先生から本物の記憶を提供してもらうことという宿題をハリーに言い渡す。
力づくで記憶を引き出すのではなく、スラグホーンを説得して納得の上で提供してもらうのだと。
ダンブルドアのことだから、ハリーがフェリックス・フェリシスを入手していて、それを使うこともすでに予想していたのだろう。