ハリー・ポッターと謎のプリンス(第18章前半)

ハーマイオニーとロンがお互いに反目したままだったので、ハリーはふたりに別々に、ダンブルドアの宿題を話した。スラグホーンから、トム・リドルとのやりとりの正確な記憶を手に入れることだ。
ロンはこの問題を安易に考えていたが、ハーマイオニーは「一筋縄じゃ聞き出せない」と予測した。そりゃそうだろう。簡単に聞き出せるのなら、ダンブルドア自身ができるはずなのだから。

それにしても、ハーマイオニーは「ホークラックス」という魔法を聞いたことがないという。本に書いてあることなら何でも知っている、そして新聞なら小さな記事もみのがさないハーマイオニーが、耳にしたことがないというのだ。

次の魔法薬学の授業では「ゴルバロットの第三の法則」ということばが出てくる。四つの寮から、魔法薬学で一定の成績をとった生徒だけが集められている授業のはずだが、この法則を理解していたのはハーマイオニーだけだった。ロンやハリーはもちろんわからない。プリンスの教科書には何の書き込みもなかったので、プリンスもこのことばをちゃんと理解していたらしい。この日の授業は、配られた毒薬に対する解毒剤の調合だったが、この法則を理解しないとできない作業だった。

解毒剤を作ることはできなかったが、プリンスの教科書の解毒剤のリストのページに「ベアゾール石を口から押し込む」とあった。
ハリーは薬戸棚からベアゾール石を取り出し、それをスラグホーンに見せた。スラグホーンはあっけにとられていたが、大笑いしてハリーをほめた。「母親と同じだ」とスラグホーンは言ったが、どこがリリーと同じなのだろう? まさか、リリーも同じような授業でベアゾール石を見せたというわけではないと思うけれど…

スラグホーンが上機嫌なのを見て、ハリーは「先生、ご存知でしょうか。ホークラックスのことですが」と声をかけてみた。
スラグホーンは、ハリーの質問がダンブルドアの差し金だとすぐ気付き、冷たく突き放す。
その後、スラグホーンはお気に入りの生徒を集めて催すパーティをやめてしまった。ハリーに質問される機会を減らそうとしたのだ。授業中は今までどおり愛想が良かったが、ハリーはしばらくこの話題を持ち出さないことにした。

2月の土曜日、姿あらわしの第一回の練習が行われた。場所は大広間だった。
「これから12週間、指導官をつとめます」と魔法省役人のトワイクロスが自己紹介する。この講習が毎週なのかどうかは知らないが、やはりテストに合格するためにはかなりの練習が必要なのだ。
ホグワーツ内では通常『姿あらわし』も『姿くらまし』もできません。校長先生が、みなさんの練習のために、この大広間に限って1時間だけ呪縛を解きました」という彼のせりふもおもしろい。姿くらましの制限は、校長権限で解除できるのだ。

みんなが大広間の中で散らばると、トワイクロスが杖を振った。すると生徒全員の前にそれぞれ木製の輪が出現した。
三つのD、どこへ、どうしても、どういう意図でが必要だと彼は説明する。
原文では Destination、Determination、Deliberation となっている。原文と意味は違うが、ここでは頭韻遊びの方が大切だから、この訳し方でもいいだろう。

その輪の中へ瞬間移動するのが課題だったが、一度目から三度目までは全員がうまくいかなかった。四度目には、スーザン・ボーンズが出発点に左足を残して移動、苦痛の悲鳴が上がった。寮監たちがスーザンを取り囲み、紫の煙があがって、彼女の体は元に戻った。
ここでハリーも読者も「ばらけ」という現象を知る。「死の秘宝」でロンがこれを経験することを、三人ともまだ知らないが。

ロンとハリーが寮の寝室に戻って、忍びの地図でドラコがどこにいるかを探しているとき、ネビルが戻ってきた。「ネビルは焼けこげの臭いをプンプンさせながら(中略)着替えのズボンを探しはじめた」とある。この作者はこういう遠回しな表現で何かあったかを暗示するのが好きだ。