ハリー・ポッターと謎のプリンス(第18章後半)

ハリーはドラコが何かたくらんでいると確信し、忍びの地図で彼の行動をさぐろうとするが、彼はしょっちゅう地図から消える。
あとでわかるが、ドラコは必要の部屋に入り浸って、姿をくらますキャビネットの修理に熱中していたのだ。

3月1日の朝。目が覚めたロンの枕元には、たくさんの誕生日プレゼントが積まれていた。
送り主は誰だろう。ラベンダーのほかは、兄たちと妹だろうか。両親からは時計が贈られてきた。少し先の話になるが、「死の秘宝」7章でモリーは同じような時計をハリーに贈る。「魔法使いが成人すると、時計を贈るのが昔からのならわし」とモリーは言っている。
「賢者の石」ですでに、クリスマスの朝目を覚ますとプレゼントが届いているという描写があった。誰が届けてくれるのか、わたしは気にせずに読んでいた。魔法でテレポートすると思っていたからだ。しかし、テレポートではなかったようだ。「夜のうちに屋敷しもべ妖精が届けたのだろうと、ハリーは思った」と書かれているからだ。
プレゼントを開けるのに夢中のロンと、忍びの地図でドラコを追求するのに集中しているハリーとは、会話すら噛み合わない。お互い、自分のことしか考えていない。ロンが惚れ薬を口にしてしまったのは、こういう状況だからこそだった。

ロンの様子がおかしいとハリーが気づいたのは、だいぶ時間がたってからだった。ハリーが朝食に行こうと誘っても「腹へってない」という。食いしん坊のロンがこんなことを言うのは前代未聞だ。
「どうしてもあの女(ひと)のことを考えてしまうんだ」とロンが言い出す。それもラベンダーのことではなく、ロミルダ・ベインだというのだ。
ロミルダは惚れ薬をしこんだチョコレートをハリーに渡していた。ハリーは忍びの地図をさがすとき、かばんに入っていたチョコレートを放り出した。ロンは自分への誕生日プレゼントのひとつだと思い込み、それを食べたのだ。
ハーマイオニーはすでに、ロミルダの策略をハリーに警告していた。しかし、他人の警告などまともに聞くことにないハリーだ。そしてハリーはドラコのことに、そしてロンは誕生日プレゼントに夢中になっていた。まったく、どっちもどっちだ。

ハリーはロンをスラグホーンの部屋へ連れていった。
「訪問には早すぎるね……土曜日はだいたい遅くまで寝ているんだが」
このスラグホーンのせりふで、この年の3月1日は土曜日だとわかる。そういえば、ケイティの事件を受けてホグズミード行きが中止になったとき、ロンが「僕の誕生日だぞ!」と言っていたっけ。
リアル世界の1997年3月1日は、リアル世界でも土曜日だ。原作者は現実のカレンダーに合わせたのだろうか。この作品には、リアル世界と曜日が合わない箇所もあるのだが。

スラグホーンはいくつかの瓶から薬品を混ぜ合わせ、グラスをロンに渡す。
「これを全部飲みなさい。(中略)彼女が来たとき、おちついていられるようにね」
こう声をかけるスラグホーンは、事情を飲み込むのも早いし、惚れ薬にやられた者の扱いにも慣れている。魔法薬の専門家として当然かもしれないが。

ロンは間もなく我に返った。
うちのめされた様子のロンを見て、スラグホーンは何か飲み物を飲ませようと思った。オーク樽熟成のはちみつ酒を開け、グラスに注いだ。
ふたりより先に一口飲んだロンが、グラスを落とし、倒れてけいれんした。あまりの意外なできごとに、スラグホーンはあぜんとしていた。ふだんは、何か起こってもテキパキと対処できる人なのだが。

ハリーは薬棚にとびつき、ベアゾール石を見つけ、それをロンの口に押し込んだ。ハリーお得意の直感が働いたのだ。
ロンのけいれんが止まり、静かになった。