ハリー・ポッターと謎のプリンス(第19章)

この章はホグワーツの医務室、夜の場面から始まる。
ロンは医務室のベッドで眠っている。まわりにハリー、ジニー、フレッド、ジョージ、ハーマイオニーがいる。彼らの会話から、前章のできごとのあと何があったかがわかる。

この日の朝、ハリーがベアゾール石でロンのけいれんを止めたあと、スラグホーンは助けを求めに走ったという。なぜ守護霊による伝言を使わなかったのかはわからない。そう言えば、彼が守護霊を出す場面はどこにもなかったように思う。マクゴナガルとマダム・ポンフリーがかけつけて、ロンを医務室に運んだ。
知らせを聞いてアーサーとモリーがかけつけた。ふたりがダンブルドアと話すために校長室へ行ったあと、フレッドとジョージがやってきた。

ロンは一週間ほど入院しなければならないが、完全に回復できるととマダム・ポンフリーが請け合ってくれたので、ハリーたちはロンが毒殺されそうになった理由についてあれこれ推理を始めた。
そこへハグリッドがやってきた。夕食のために大広間に行ったとき、スプラウト先生からロンが医務室へ運ばれたと聞き、すぐにやってきたのだ。

「アラゴグの容態が悪くなって、俺はあいつに本を読んでやっとった」とハグリッドは言う。作者はさりげなく、アラゴグの健康状態に問題があることを示し、22章でアラゴグが死ぬという出来事につないでいる。アラゴグの死が、ハリーに幸運をもたらすのだ。

ハグリッド・ハリー・ハーマイオニーの三人は、医務室を出て廊下を歩いていた。
ハグリッドはダンブルドアを心配して「ネックレスを贈ったヤツは誰で、あのはちみつ酒に毒を入れたのは誰だということがおわかりにならねえ」と言っているが、この時点ですでにダンブルドアは犯人を知っていたはずだ。
校内で殺人未遂が起こったのだから、親たちがパニックになって生徒を家に呼び戻し始めるだろう。すると理事会が問題にしてダンブルドアをやめさせるという動きになる。「秘密の部屋」の二の舞だ。そうハグリッドは言う。これに関しては、ハグリッドは間違っていないと思う。大いにあり得ることだ。もっとも、この巻では理事会は動かなかった。「秘密の部屋」のときにダンブルドア追い出しの中心にいたルシウス・マルフォイは、今はアズカバンにいるのだから。

ハグリッドは、ダンブルドアとスネイプが言い争うのを耳にしたと、口をすべらせる。ハリーがその話にとびつく。スネイプを憎むための口実なら、何でも知りたいのだ。それは、自分のせいでシリウスを死に追いやったという自責の念を少しでも軽くしたいという無意識の願いでもあった。
スネイプは、もうそういうことはやりたくないと言い、ダンブルドアが、いったん承知したんだからもう何も言うなと、強く言っていたという。ハグリッドは何のことか知らなかったが、ダンブルドアはスネイプに、機会が来たら自分を殺せと命令していたのだ。スネイプはそれを嫌がっていた。当然だろう。自分の手で人を殺すのは、いくら元死喰い人でも嫌なことだ。しかも殺す相手は、この世の中でただひとり、スネイプの本心を知っている人なのだから、ダンブルドアがいなくなってからの孤独は考えるだけでもつらいだろう。

ハグリッドはふたりをグリフィンドール寮まで送ってくれた。
ハーマイオニーが女子寮へ去ったあと、談話室にコーマック・マクラーゲンが残っていたのにハリーは気づく。ロンが医務室へ運び込まれたのを目撃して、ロンの代わりのキーパーは自分だと言うためにハリーを待っていたのだ。

何日かたって、クィディッチの対ハッフルパフ戦の日が来た。
ハリーは医務室のロンを見舞ったあと、競技場へ向かった。途中でドラコに会った。知らない女の子をふたり連れている。あとでわかるが、ポリジュース薬で変身したクラッブとゴイルなのだ。
マルフォイのあとをつけたい気持ちで、しばらくハリーは立ち尽くしていた。キャプテンなのだから、試合直前にそんなことをしていいはずがない。個人的な衝動は押さえてすぐに競技場へ行くべきだろう。責任感がなさすぎる。
マクラーゲンは自己顕示欲が強く、試合をうまく運ぶよりも自分を売り込むことに熱心だった。ピークスのこん棒を取り上げ、ブラッジャーの打ち方を説明している。キーパーだからゴールを守らなければいけないのに。そして、マクラーゲンが打ったブラッジャーがハリーの方に飛んできた。まさかマクラーゲンが味方であるハリーを狙ったとは思えないが。
ハリーは気を失った。

意識を取り戻したときは、医務室でロンの隣のベッドに寝ていた。頭蓋骨を骨折したという。
「心配要りません。わたしがすぐに治しました」とマダム・ポンフリーが言う。そう言えば「秘密の部屋」でも、骨折ならあっという間に治せると、彼女は言っていた。
あの時、骨を再生させる痛みに一晩苦しんだ。そしてドビーがやってきて、自分がブラッジャーに魔法をかけたと告白した。そこまで思い出したとき、ハリーは明暗を思いついた。屋敷妖精に命令して、ドラコを尾行させるのだ。

「クリーチャー」と呼ぶと、パチンと音がして、クリーチャーが現れた。なんと、ドビーもいっしょだ。クリーチャーもドビーも、今はホグワーツの厨房で働いている。
「ドラコ・マルフォイを尾行してほしい。あいつがどこに行って、誰に会って、何をしているのかを知りたい。24時間尾行してほしい」とハリーは指示する。ドビーは喜んで引き受ける。クリーチャーはしぶしぶ、嫌みを言いながらも承知する。屋敷妖精は主人の命令には逆らえないのだ。