ハリー・ポッターと謎のプリンス(第20章後半)

ダンブルドアはもうひとつのクリスタルの瓶をとりあげ、ペンシーブに入れた。ダンブルドア自身の記憶だという。
ペンシーブの中は、今と同じ校長室で、今より少ししわが少ないダンブルドアがいた。窓の外は雪が降っていた。

ドアを叩く音がして、ヴォルデモートが入ってきた。
「炎のゴブレット」で蘇ったヴォルデモートの姿とは違っていた。目は赤くないし、瞳孔の形も縦に切れ込んだ形ではなく、全体に現在ほどそれほど蛇に似ていない。ただ、「奇妙に変形した蝋細工のようだった」と書かれている。

映画だけでこの物語を知ったら、「炎のゴブレット」で蘇ったときに蛇のような顔になったとしか思えないだろう。「賢者の石」でクィレルにとりついた時は普通の顔だったのだから。
しかし小説では、「賢者の石」の時点ですでに蛇の顔だった。そして、ダンブルドアの記憶の中のヴォルデモートの顔。魂を切り刻んだために、顔が少しずつ変形していったのだ。

ヴォルデモートは「あなたが校長になったと聞きました」と切り出した。
これに続く会話で、ダンブルドアが魔法大臣になることを三度請われ、三度とも断ったことがわかる。なぜ断ったのか、その理由は「死の秘宝」のキングズ・クロスの章で明らかになる。
ここでヴォルデモートは、この学校の教師になりたいともちかける。
このふたり、表面上はていねいなことば遣いでおだやかにやりとりしているが、実は丁々発止のやりとりであることをハリーは感じとる。

ダンブルドアは、ヴォルデモートの手下たちがホッグズ・ヘッドで待機していることを指摘し、その名前をあげて見せる。
ヴォルデモートは虚をつかれたようすだったが、すぐに気をとりなおして「相変わらず博識ですね、ダンブルドア」と言う。この「博識」が誤訳であることは、早くからネット上で指摘されていた。
ダンブルドアはどうして、手下たちがホッグズ・ヘッドにいることを知ったのか。「死の秘宝」まで読めば、バーテンのアバーフォースが情報源であることはわかる。どうやって知らせたのか? おそらく、守護霊による伝言を飛ばしたのだろう。

ヴォルデモートは本気で教師になりたいと思ったわけでもないし、ダンブルドアが断ることも予想していた。それなのになぜやってきたのか。その理由は23章ではっきりする。
「君がスラグホーン先生の記憶を回収したら、ハリー、そのときには話して聞かせよう」とダンブルドアが言ったとおりに。

この話し合いで、ヴォルデモートはどの課目を教えたいのかは言わなかった。しかし、このとき以来、「闇の魔術に対する防衛術」の課目には呪いがかかり、一年を超えてこの課目を教えた教師はひとりもいないのだという。
クィレルは前年マグル学を担当していたと原作者がインタビューで発言していた。ロックハートは記憶を失って入院、ルーピンは狼人間とばれて退職、偽ムーディは元々一年間の約束で就任、アンブリッジも一年後に魔法省へ戻った。スネイプはこの課目を教え始めてから一年で逃亡、校長として戻ってきた。
たしかに呪われた課目だ。しかい、人間や物ではなく、課目に呪いをかけるとは、やはりヴォルデモートが並外れた能力の持ち主だということなのか。

ところでヴォルデモートが訪ねてきたのは、何年のことなのだろう。
公式サイト Pottermore によると、ヴォルデモートは1926年12月31日生まれ。ホグワーツを卒業したのは1945年ということになるだろうか。リリーに返り討ちされるのは1981年。「賢者の石」冒頭のダンブルドアとマクゴナガルの会話から、魔法界でヴォルデモートの支配が本格的に始まったのは1970年頃。
ここからは想像だが、ホグワーツ訪問は1960年前後と考えていいだろうか。