ハリー・ポッターと謎のプリンス(第22章前半)

夏のある日、三人が中庭にいたとき、ハグリッドから手紙が届いた。
見知らぬ女子生徒が届けにきた。なぜふくろうを使わなかったのだろう。「賢者の石」では、ハグリッドの手紙をヘドウィグが運んできたが。
手紙の内容は、アクロマンチュラのアラゴグが昨夜死んだという知らせだった。「埋葬に来てくれたらうれしい」「俺ひとりじゃ耐えきれねえ」と訴えているのはいいとして、ハリーたち三人がアラゴグを好きなはずだと思い込んでいるところは困ったものだ。

ロンは、「秘密の部屋」で森に行ったとき蜘蛛たちに殺されそうになったことを思い出し、アラゴグの葬式などに行きたくないという。ま、当然のことだ。
ハーマイオニーは、城の警備が強化されているこの時期に、夜にハグリッドの小屋へ来てくれという要求にあきれていた。ハリーたちが夜に城の外へ出るのは危険でもあるし、規則破りとして罰則を受けるおそれもある。ハグリッドの頼みは受けるべきではないし、意味はないと言う。
ハリー自身も、アラゴグの埋葬に立ち会うつもりはなかった。

今日は姿あらわしの試験のために、六年生の大多数がホグワーツを留守にする。授業に出るのは少数だから、スラグホーンに働きかけるチャンスだとハーマイオニーは言う。
ハリーは「57回目に、やっと幸運ありっていうわけ?」と返す。「ハリーが苦々しげに言った」と書かれているから、ハーマイオニーの勧めをありがたく思っていないのは確かだ。
しかし、ハリーのせりふの「幸運」ということばが、ロンに明暗を思いつかせる。幸運の薬、フェリックス・フェリシスを使うべきだというのだ。

ハリーはフェリックス・フェリシスのことを忘れていたわけではなかった。それどころか、何度もその薬を使うことを考えていた。ただし、スラグホーンの記憶ではなく、ジニーがボーイフレンドのディーンと別れて自分と仲良くなるという進展を空想していたのだ。
「スラグホーンの記憶ほど大切なものがほかにある?」とハーマイオニーに言われ、ハリーは決心する。魔法薬学の授業でスラグホーンを説得できなかったら、夕方あの薬を使ってみると。

ところで、「57回目」って何のことだろうか。
イギリスに、57回目に何かの幸運で成功した人の伝説でもあるのだろうか?

中庭に女生徒がふたり現れた。悲しそうな様子だった。ハーマイオニーが解説する。ふたりはモンゴメリー姉妹で、弟が狼人間のフェンリール・グレイバックに殺された。母親が死喰い人に手を貸すことを拒んだのだという。ヴォルデモートの恐怖政治がもう始まっている。
ハーマイオニーは単なる本の虫ではない。マグル生まれでありながら、魔法界のこういう情報にも通じていて、ロンやハリーの知らないことを教えてくれるのだ。

この日の魔法薬学の授業に出たのは、ハリー、ドラコ、そしてハッフルパフ生アーニー・マクミランの3人だけだった。
スラグホーンは「何でもいいから、おもしろいものを煎じてみてくれ」と言う。ハリーは教科書をめくって「陶酔感を誘う霊薬」というのを作ってみた。プリンスの教科書の指示どおりにしたが、それは正規の材料のほかにハッカの葉を加えることだった。
ハリーがどこからそんな知識を得ているのか知らないスラグホーンは、「母親の遺伝子が君に現れたのだろう」と解釈する。リリーは魔法薬でみごとなひらめきを見せていたのだろう。ただ、リリーの場合も実はスネイプの助言に従っていただけ、という可能性はないだろうか?

魔法薬の調合には成功したが、スラグホーンを引き止めるのには失敗した。授業が終わるとスラグホーンはすぐに立ち去ってしまった。
夕食のあと、ハリーたち三人は男子寮にいた。他の同室者は談話室にいて留守だ。ハーマイオニーとロンの前で、ハリーはフェリックス・フェリシスを取り出して一口飲んだ。