ハリー・ポッターと謎のプリンス(第23章)

ハリーはスラグホーンの記憶を手に、寮に戻ろうとした。
しかし、寮の入り口を入ろうとしたとき、ゴーストのニックがやってきて、ダンブルドアが一時間前に校長室に戻ったと知らせてくれる。
ハリーは校長室へ走った。合言葉を言うと、ガーゴイルがとびのいてハリーを通した。ノックをすると「お入り」の声がして、ハリーは中に入った。
「『なんと、ハリー』ダンブルドアは驚いたように言った」と書かれている。原文は in suprise なのに、なぜ「ように」をわざわざ付け加えたのだろう? そのせいで、ダンブルドアは今夜のハリーの行動を把握していたと深読みしてしまう読者がいるかもしれない。

ダンブルドアはいつものようにペンシーブを取り出し、ハリーが持ってきた瓶の中身を入れた。そして、いっそにペンシーブに入った。
少し若いスラグホーンと、学生時代のトム・リドル、そして数人の学生たち。以前見た「細工された記憶」と同じ場面から、映像は始まる。スラブホーンがふたりの学生に「レストレンジ」「エイブリー」とよびかけているのがおもしろい。現代の場面に登場するレストレンジやエイブリーの親世代なのだろうか。

他の学生たちが出ていったあと、リドルはスラグホーンに話しかける。「聞きたいことがある」と。
本でホークラックスということばを見つけたが、よくわからない。教えてくれる人がいるとすれば先生しかいない、と、トムはことばたくみにスラグホーンをおだてる。
スラグホーンは、ホークラックスとは分霊箱のことで、魂の一部を保存する容器だと説明する。そうすれば、本体が攻撃されたり破壊されたりしても死ぬことはない。そして、魂を分断するのは人を殺すことによってだと。

「魂は一回しか分断できないのでしょうか?」「たとえば、七という数はいちばん強い魔法数字ではないですか? 七個の場合は……?」
スラグホーンはあわてて塔をさえぎる。
「ひとりを殺すと考えるだけでも十分に悪いことじゃないかね?」と。
えこひいきがひどくてコネ好きのスラグホーンではあるが、基本的に悪人ではない。人を殺すことは悪いことだと、根っから思っているのだから。

ペンシーブから出たあと、ダンブルドアは少しの間黙っていた。考えをまとめていたのだろうか。
ここで読者もハリーも、分霊箱についてのはっきりした知識を得る。これだけの長編で、こんな重要なアイテムをここまで出さずにきたのはすごいと思う。普通の作家なら、ストーリー上の重要アイテムをもっと早く出したくなるだろう。
分霊箱だけではない。「死の秘宝」にいたっては、最終巻のそれも後半になってからやっと明確な登場をする。やはりローリングさんはすごい。

「四年前、わしは、ヴォルデモートが魂を分断した確かな証拠と考えられるものを受け取った」とダンブルドアは言う。「秘密の部屋」で登場した、リドルの日記のことだ。
日記に保存されていたのは単なる記憶ではなく、リドルの魂の一部だったのだ。
それを受け取ったとき、ダンブルドアは、分霊箱が複数ある可能性に思い至った。あの日記が唯一の分霊箱なら、あっさりルシウスに渡すだろうか。他人を信用しない彼が。
スラグホーンの記憶から、ダンブルドアはトムが複数の分霊箱を作ったと推理する。それも七個作った可能性があると。
七という数字がいちばん強力な魔法数字だというのは、おそらくローリングさんの独創ではなく伝承による設定だろう。ラッキーセブンとかいうことばもあるし。

魂を七個に分断するために、ヴォルデモートは六個の分霊箱を作っただろう。ひとつは「秘密の部屋」でハリーが破壊した。そしてふたつめは、ダンブルドアがゴーントの家で見つけて破壊した。幾重にも享禄な保護魔法をほどこしてあったが、ダンブルドアはそれを破った。この時彼が致命傷を負ったことは「死の秘宝」33章でわかる。

あと四個はどんな物だろうか。
ここで、ホキーの記憶をハリーに見せた意味がわかる。ハッフルパフのカップとスリザリンのロケットこそ、分霊箱にふさわしいとトムが奪った宝物に違いない。
あとのひとつは、グリフィンドールかレイブンクローゆかりの品物だろう。そして最後の分霊箱はおそらく蛇のナギニだと、ダンブルドアは推測する。

分霊箱を破壊されたとき本体はそれを感じるのか、とハリーは質問する。
ダンブルドアは、日記が破壊されたときヴォルデモートの魂は何も感じなかったと説明する。
「ルシウス・マルフォイの口から真実を吐かせるまで、あの者は日記が破壊されてしまったことに気づかなんだ。日記がズタズタになり、そのすべての力を失ったと知ったとき、ヴォルデモートの怒りたるや、見るも恐ろしいほどだったと聞き及ぶ」
やたら詳しいが、ヴォルデモート周辺のこういったできごとは、スネイプが逐一ダンブルドアに報告していたのだろう。

このあと、ダンブルドアとハリーは「愛」について、またハリーの使命いついてさまざまなことばをかわすが、わたしにはよく理解できなかった。
章のラストに書かれていることばは、何とかわかった。
「死に直面する戦いの場に引きずり込まれるか、頭を高く上げてその場に歩み入るかの違いなのだ」という部分である。両親もその違いを知っていて戦ったし、自分もダンブルドアもその違いを知っている。