ハリー・ポッターと謎のプリンス(第26章前半)

ダンブルドアの推測によると、こども時代のトムは、孤児院のこどもたちをここへ連れてきた。怖がらせて楽しむためだ。
13章で孤児院院長のミセス・コールは「夏の遠足のとき--ええ、一年に一回、子どもたちを連れていくんですよ。田舎とか海辺に--それで、エイミー・ベンソンとデニス・ビショップは、それからずっと、どこかおかしくなりましてね。ところがこの子たちから聞き出せたことと言えば、トム・リドルといっしょに洞窟に入ったということだけでした」とダンブルドアに話していた。
ジェームズはおおぜいの生徒が見ているところでスネイプを逆さ吊りし、下着をむき出しにしてさらし者にした。トム・リドルは孤児院のこどもたちを怖がらせてトラウマを与えたが、自分が何かしたという証拠は残さなかった。どっちも負けず劣らず陰湿ないじめだが、陰湿さの具体的な状況は違った。

洞窟は、遠足の目的地と思われる村とは反対側の、マグルが簡単に来られない位置にあった。幼いトムは、当然魔法を使ってこの洞窟に来たのだろう。しかも他のこどもを連れて。ホグワーツ入学前から魔法を制御できた彼ならではの腕前だ。リリーも入学前に魔法を制御することができたが、せいぜいブランコから飛び降りたり、花びらを動かしたりする程度だった。トムとリリーでは、使える魔法のスケールが違っていたのだろう。

ダンブルドアはルーモスの呪文で杖に明かりをつけ、杖を口にくわえて洞窟の中へ泳いだ。ハリーもいっしょに泳いでついていった。
しばらく泳いで、ダンブルドアは水からあがった。洞窟の壁や天井を調べながら「ここがその場所じゃ」「魔法を使った形跡がある」と言った。
そしてさらに、壁のあちこちを調べながら、入り口の位置をさぐった。ここでダンブルドアがどんな呪文を唱え、どうして入り口が隠されている位置を見つけたのかは書かれていない。物語がハリー目線だから、ハリーにわからないことは読者にもわからないのだ。

ここでダンブルドアがハリーに杖を向け、ずぶぬれのハリーの服をかわかしてくれた。
「賢者の石」以来、「服をかわかす呪文はないのかな?」と思う場面に何度か出会った。そういう呪文があることが、ここでやっとわかった。
そしてダンブルドアは、「通行料を払わねばならぬらしい」と言い、小刀で自分の腕に傷をつけ、その血を目の前の岩に振りかけた。アーチ型の入り口が開いた。

そこは巨大な黒い湖だった。
湖の真ん中あたりに、緑色の光が見えた。
ダンブルドアは空中で見えない何かをつかんだ。鎖が現れ、その鎖の先に小舟があった。
「トム・リドルをおしえたわしじゃ。あの者のやり方はわかっておる」
確かに、この洞窟の小舟までたどり着くのは、ダンブルドアでなければ無理だっただろう。ゴーントの指輪も、そうやって複雑な守りを破ったのに違いない。

ハリーとダンブルドアは小舟に乗った。ハリーは水の中に人間の死体がたくさん沈んでいることに気づいた。
小舟は湖の真ん中の島に着いた。石の水盆が台座の上に置かれていた。水はエメラルド色の液体で満たされている。
その液体に触れることはできなかった。ダンブルドアもハリーも、目に見えない壁があるかのように、さわろうとした手を押し戻された。ダンブルドアはいろいろな術をかけてみたが、液体を動かすことも消すこともできなかった。
ついにダンブルドアは、この液体を飲み干す以外に方法はないと結論づける。それも、飲み干そうとする者にその行為を続けさせないような魔法をかけてあると看破する。