ハリー・ポッターと謎のプリンス(第26章後半)

水盆の液体をていねいに調べていたダンブルドアは、ハリーに命令する。自分が嫌がっても、無理矢理最後までこの液体を飲ませ続けるようにと。
ダンブルドアがこの液体を取り除く方法をどのようにして知ったのか、まったく書かれていない。物語はハリー目線で進むから、ハリーにわからないことは読者にもわからないのだ。原作者の頭の中には答があるのだろうか?

ダンブルドアはゴブレットを水面に近づけた。不思議なことに、今度は液体をすくうことができた。
さっきは液体に触れることもできなかったのに。
手ではなくゴブレットですくったから、というわけではないだろう。この液体にかけられた魔法は、ゴブレットを手にしている人間が液体を単に汲み出そうとしているのか、それとも飲む気でいるのかを見分けられるのに違いない。

三杯目までは異常がなかったが、四杯目からダンブルドアは恐怖におびえ始めた。
そしてうわごとのように、「あの者たちを傷つけないでくれ。代わりにわしを傷つけてくれ」と哀願し始めた。
「死の秘宝」28章のアバーフォースのせりふでわかるが、このときダンブルドアの心は、アリアナが死んだ日に戻っていたのだ。毒薬は、本人のいちばんつらい思い出を蘇らせて苦しめるという効能をもっていた。なんという陰湿な魔法だろう。

抵抗するダンブルドアに、ハリーは必死で液体を飲ませ続けた。この場面の描写はやたら詳しく、心に迫るものがある。
ダンブルドアはほとんど気を失いかけた状態で「水」とつぶやく。ハリーはアグアメンティの呪文でゴブレットに水を出したが、飲ませようとすると水は消えてしまった。何度やってみても駄目だった。
しかたなくハリーは湖の水を汲んだ。水は消えない。ハリーはダンブルドアの顔に水をかけたが、その瞬間、湖に沈んでいた死体が動き出した。
ハリーは襲ってくる死体に、いろいろな呪文で対抗した。ペトリフィカス・トルタス、インペディメンタ、インカーセラス。ここでハリーがセクタムセンプラを使ったことにわたしはおどろいた。ドラコにこの呪文を使ってしまった時のことを思えば、二度と使いたくないという気持ちになりそうなものなのに。

ハリーが水にひきこまれたそのとき、まわりに炎が燃え上がった。ダンブルドアが意識を取り戻し、杖から炎を吹き出させていた。
ここへ来たときダンブルドアは「死体は光と暖かさを恐れる」と言っていた。ハリーが使ったさまざまな呪文よりも有効な方法を、ダンブルドアは知っていたのだ。

ダンブルドアは水盆の中からロケットを取り出してローブの中(おそらくポケットの中)に入れ、ハリーといっしょに小舟に乗った。ダンブルドアが出した炎の輪が、小舟を取り囲んでいっしょに動いた。
ハリーは戦いに気をとられてしまい、ここに来た目的であるロケットを忘れていたのだ。

すっかり弱ったダンブルドアを支えて、ハリーは洞窟を出た。そこは元の海だった。