ハリー・ポッターと謎のプリンス(第27章前半)

この章のタイトルは「稲妻に撃たれた塔」だ。
「塔」というのは、この章の主な舞台である天文台の塔を指す。城でいちばん高い塔だと書かれている。
「稲妻」は出てこないけれど、スネイプが放つ死の呪文のことだろうか。それとも、初めてホグワーツ城内に入ってきた死喰い人の攻撃全体を象徴しているのだろうか。
いずれにしても、この章タイトルによって原作者は、トレローニーのトランプ占いが当たったことを暗示している。

洞窟を出たダンブルドアとハリーは、姿あらわしでホグズミードへ戻った。
往路とは違って、ハリーが主導した。ダンブルドアはとても弱っていて、立つのもやっと。ハリーはダンブルドアを支えながら、強く行き先を念じた。姿あらわしの講習は受けていたが、成人年齢に達していないハリーにはまだ資格はない。しかしダンブルドアといっしょなら、咎められることはないはずだ。「秘密の部屋」でハリーを苦しめた「魔法省は誰が魔法を使ったかを感知することはできない」という条件が、ここではハリーにもダンブルドアにも有利に働いた。

「先生を学校に連れて帰らなければなりません……マダム・ポンフリーが……」
治療してくださるでしょう、と言いかけたハリーを、ダンブルドアが遮った。
「必要なのは……スネイプ先生じゃ……」
このやりとりは13章を思い出させる。校長室でケイティ・ベルのことが話題になったとき、ダンブルドアはケイティがスネイプ先生の処置のおかげで呪いが広がるのをくいとめられたと言った。そのときハリーは生意気にも「どうしてマダム・ポンフリーじゃないんですか?」と言い返した。ダンブルドアはおだやかに、「スネイプ先生は、マダム・ポンフリーよりずっと闇の魔術を心得ておられるのじゃよ」と説明していた。
スネイプは学生時代から、闇の魔術に関する知識が豊富だった。それは同時に、闇の魔術をどう防ぐか、闇の魔術による損傷にどう対抗するかという知識もあることを意味する。

誰かに助けを求めるためあたりを見回していると、マダム・ロスメルタが走ってくるのが見えた。
「寝室のカーテンを閉めようとしていたら、あなたが姿あらわしをするのが見えたの」とロスメルタが言っているから、もう寝床に入る時刻になっていたのだ。ホグズミードを発ったときは日没だったが、それから何時間たっているのだろうか。

ロスメルタは、単にダンブルドアを見かけたから走ってきたのではなかった。ホグワーツに突然闇の印が上がったので、それをホッグズ・ヘッドにいるはずのダンブルドアに知らせようとしていたのだ。現れたのは数分前だという。
箒が必要だというダンブルドアに、「バーのカウンターの裏に二、三本ありますわ」とロスメルタが応えた。ハリーが呪文で箒を呼び寄せた。「アクシオ!ロスメルタの箒よ、来い!」と言うと、パブの入り口が開き、箒が二本、外へ飛び出してきた。ここで、アクシオの呪文だけで扉まで開いたのがおもしろい。「不死鳥の騎士団」でフレッドとジョージがアンブリッジの部屋から箒を呼び寄せたときは、壁に穴をあけて飛んできたが… どこが違うのだろう?

さっきまで立つことさえ難しかったダンブルドアが、元気を取り戻していた。ホグワーツ城の上に闇の印が上がっていることが、カンフル剤のような役目をしたのだろう。「ロスメルタ、魔法省への連絡を頼んだぞ」と言い残し、ハリーには透明マントをかぶるように指示して、ダンブルドアは箒にまたがった。
ここで「マダム・ロスメルタは、すでにハイヒールでよろけながら…」と書かれているのは不自然だ。これからベッドに入ろうとしていた彼女が、ここでハイヒールをはくはずがない。この部分の原文は Madam Rosmerta was already tottering back towards her pub で、ハイヒールなんてどこにも書いていない。いったい翻訳者はどういうつもりだったのか。二ページ戻ると、ロスメルタが「かかとの高いふわふわした室内履きを履き(中略)絹の部屋着を着ている」と書かれているのに。

ふたりは天文台の塔の屋上に着いた。その時には誰もいなかった。
ダンブルドアはハリーに、スネイプを起こしてくるように指示した。なぜ守護霊の伝言を使わなかったのだろう? 相手が眠ってしまったら、守護霊の伝言は聞いてもらえないからだろうか。
しかしハリーが屋内へ移動する前に、誰かが飛び込んできた。その人物は、飛び込むと同時にエクスペリアームスの呪文を唱え、ダンブルドアの杖が飛んだ。同時にハリーは透明マントをかぶったまま、身動きできなくなった。ダンブルドアは無言呪文でハリーの動きを止めたのだ。

飛び込んできたのはドラコ・マルフォイだった。
ドラコとダンブルドアのやりとりから、ドラコが死喰い人をホグワーツに引き入れることに成功したこと、その死喰い人たちが階下で騎士団と戦っていることがわかる。また、ケイティ・ベルとロンの事件はドラコのしわざだと、ダンブルドアがとっくに見抜いていたこともわかる。しかし、今夜死喰い人が場内に入ってくることは、ダンブルドアも予想していなかった。
「不死鳥の騎士団」で、モンタギューがフレッドとジョージにキャビネットに押し込まれたとき、時々学校で起こっていることが聞こえたり、ボージン・アンド・バークスの店の出来事が聞こえたりした。それを聞いたドラコは、姿をくらますキャビネットを修理すれば、いろいろな魔法で守られているホグワーツへ死喰い人やヴォルデモートを導き入れることができると気づいた。ドラコはこの一年間、必要の部屋で修理に没頭していた。だからマクゴナガルの宿題を怠り、罰則を受けるまでになったのだ。

ダンブルドアは、ドラコとの会話の中で、ロスメルタがドラコの共犯であることにも気づいた。ドラコはロスメルタに服従の呪文をかけ、蜂蜜酒に毒を入れたりネックレスをケイティに渡したりしていたのだ。
魔法界というのは、ほんとうに恐ろしいところだと思う。他人の心をあやつり、本人が意識しないうちに殺人の共犯にもしてしまうのだから。
ロスメルタとの連絡にはコインを使ったという。ドラコはハーマイオニーが考えだしたコインによる連絡法を知っていたのだ。そして、NEWTレベルの魔法だという「変幻自在呪文」を、ドラコも使いこなせたということは、彼の優秀さを示している。

洞窟へ出かけるとき、ダンブルドアはロスメルタに声をかけ、ホッグズ・ヘッドへ行くと伝えた。ロスメルタはすぐに、校長はホッグズ・ヘッドへ行ったとドラコに連絡したのだ。
ドラコはチャンスとばかり、死喰い人を呼び寄せた。どうやって死喰い人に連絡したのか、死喰い人たちがどんな口実でボージン・アンド・バークスの店に入ったのか、それはわからないままだけれど。