ハリー・ポッターと謎のプリンス(第29章後半)

ウィーズリー夫妻とフラー・デラクールがいっしょに来たということは、フラーはウィーズリー家にいたのだろう。
ビルは意識のないままベッドで寝ている。
「ビルはどうなりますか?」とアーサー・ウィーズリーはマクゴナガルに聞く。マクゴナガルはルーピンに視線を移す。ルーピンは「ビルが目を覚ましたとき、どういう行動に出るかはわからない」と答える。変身していない時期の狼男に襲われるという前例はないだろうというのだ。

「この子は、もうすぐ結婚するはずだったのに」
モリー・ウィーズリーのひとりごとを、フラーが聞きとがめる。
「この人がどんな顔でも、わたしが気にしますか? わたしだけで十分ふたり分美しいと思います」
このフラーのせりふは痛快だ。
しばらくの沈黙のあと、モリーがフラーに言う。
「大叔母のミュリエルが、とても美しいティアラを持っているわ。あなたの結婚式に貸していただけるように…」
それまでフラーとビルの仲を嫌がっていたモリーが、フラーを認めた。
ただ、わたしは、モリーをはじめとしてジニーやハーマイオニーがなぜフラーを嫌っていたのか、さっぱり理解できない。

フラーとモリーのやりとりが、トンクスとルーピンの関係を思いがけず浮かび上がらせる。
トンクスは、「フラーはそれでもビルと結婚したいのよ」「わたしも気にしないわ」とルーピンに言い、ルーピンは「次元が違う。ビルは完全な狼人間になるわけじゃない」と言い返す。このふたりは、これまでに何度も同じやりとりをしてきたことがここでわかる。トンクスはルーピンに愛をうちあけ続け、ルーピンはそれを拒否し続けてきたのだ。
アーサーとマクゴナガルが、トンクスを励ます。

ところで、「アズカバンの囚人」の時期に脱狼薬を煎じてくれたのはスネイプだった。
その後、誰が毎月薬を作ってくれているのだろう。ダンブルドアのことだから、誰か物語に出てこない人物に、脱狼薬づくりを依頼していたのだろうか。
トンクスと結婚したら、トンクスが脱狼薬を作ることになるのだろうか?

ハグリッドが医務室に入ってきた。
彼のせりふから、彼がマクゴナガルの指示を受けてテキパキと行動したことがわかる。

マクゴナガルはハリーに「あなたとちょっとお話があります。いっしょに来てください」と言って医務室を出る。ハリーがついていくと、マクゴナガルは校長室に入った。
校長室には、すでにダンブルドア肖像画がかかっていた。肖像画ダンブルドアは眠っている。

ダンブルドア先生と一緒に学校を離れて、今夜何をしていたか知りたいものです」
マクゴナガルの質問は、当然のことだろう。副校長として、また今は新任の校長として、知っておく必要があると誰だって思う。
しかしハリーは答えることを拒んだ。ダンブルドアは個人授業の内容を、ロンとハーマイオニー以外には話すなと言っていたのだ。

そこへフリットウィック、スプラウト、スラグホーン、それにハグリッドが入ってきた。
マクゴナガルは、ホグワーツを今後どうするべきかと問いかける。フリットウィックが冷静に「理事たちと相談しなくてはなりませんな」「定められた手続きに従わねばなりません」と発言する。
マクゴナガルがハグリッドの意見を尊重していることが、ここのやりとりでわかる。

ここで、ダンブルドアの葬儀のことをハリーが発言するのが、わたしには不自然に思える。
誰か大切な人が死んだとき、葬式をどうするかまで考えたくないというのが普通の心理ではないのだろうか? 実際には、肉親が死んだら葬式のことを考えざるを得ないけれど、ここでのハリーが「葬儀が終わるまで生徒を返すべきではない」とまで口を出すのは変だ。不自然でもあるし、生徒として僭越すぎるという気もする。
ダンブルドアの葬儀をどうするかは、ハリーではなくスプラウト先生あたりに言わせてほしかった。

ハリーがグリフィンドール寮に戻ると、太った婦人は「ほんとうにダンブルドアが死んだの?」とハリーに聞いた。ハリーが「本当だ」と答えると、彼女は声をあげて泣き、合言葉を待たずに入り口を開けた。合言葉を聞かずに開けた描写は、ここが最初で最後だと思う。

談話室には大勢の生徒がいたが、ハリーは黙って通り抜け、寝室へ入った。ロンがひとりで待っていた。
ロケットが偽物だったことを、ハリーはロンに話した。
これまで聞こえていた不死鳥の歌が聞こえなくなった。
飼い主を失った不死鳥はどこへ行ったのだろう。野生に帰るのだろうか? 
この不死鳥が校長室にとどまって、マクゴナガルが飼い主になればいいのにとわたしは思う。ただ原作者は、ダンブルドアが死んだ以上不死鳥も物語を去るべきだと考えているそうだ。