ハリー・ポッターと死の秘宝(第4章前半)

ダーズリー家の三人とふたりの魔法使いは、バーノンが運転する車で走り去った。
ここで、ハリーが思い出にふけるところがあるのだが、ダーズリー親子の留守にハリーがけっこう勝手なことをしていたことが描写される。冷蔵庫からおいしそうなものを取って食べたり、ダドリーのコンピューターゲームをやったりしていたのだ。彼らが戻ってから叱られはしたのだろうが、虐待されてもめげずに自分のやりたいことをやっていたのがわかる。

家のすぐそばで物音がした。ハリーは窓から裏庭をのぞいた。そこに、「一人、また一人と、『目くらまし術』を解いた人影が現れた」と書かれている。
魔法使いは、べつに透明マントがなくても姿を隠すことができるのだ。ハリーたちがこの術を使う描写がないのは、よほど熟練した魔法使いのみが使える技だからなのか? ハグリッドはオートバイに乗っていたが、オートバイにも目くらまし術がかけられていたのだろうか。

全員がダーズリー家の台所に集まった。
ロン、ハーマイオニー、フレッド、ジョージ、ビル、フラー、アーサー、ルーピン、トンクス、キングズリー、マンダンガス、ハグリッド、そしてリーダーはムーディだ。

元々の計画では、ムーディが「付き添い姿くらまし」で、ハリーを連れ出すはずだった。しかし魔法法執行部部長のシックネスが、ダーズリー家からの魔法を使った移動を禁止したため、姿くらましができなくなったという。だから一行は姿あらわしではなく、セストラルやほうきで移動してここへ来たのだ。
ムーディは「シックネスが寝返った」と言ったが、実はヤックスリーがシックネスに服従の呪文をかけていたことを、読者は知っている。
ハリーが逃げないようにするためだが、シックネスの指示が「ハリーを守るため」という口実で出されているところが面白い。魔法省は今のところ、ハリーを守る立場にたっているのだ。

そして、魔法省が未成年の魔法を感知するという問題もある。これは「臭い」と訳されているが、原文では trace で、「痕跡」とでも言う方が正確だ。
その痕跡をかぎつけられない方法が、空飛ぶオートバイとほうき、それにセストラルだという。つまり、オートバイやほうきには魔法がかけられているが、それを使って飛ぶのは魔法じゃないのだ。そうするとマグルもほうきに乗れるのだろうか。

騎士団に関係する12軒の家に、ムーディたちは保護魔法をかけたという。そして、6人がポリジュース薬でハリーになりすまし、この家を出るというのだ。
最初は反対したハリーだが、ほかに方法がないと説得され、髪の毛を提供する。
ロン、ハーマイオニー、フラー、フレッド、ジョージ、マンダンガスがポリジュース薬を飲み、ハリーに変身する。その間にムーディは袋の中から着替え用の洋服を取り出す。ハリーとはサイズが違うものもいるからだ。眼鏡がきちんと用意してあったのはさすがだ。
ハーマイオニーは「ハリー、あなたの視力って、ほんとに悪いのね」と言う。ポリジュース薬で化けると視力や聴力も対象の人物と同じになるらしい。

7人のハリーと、7人の護衛。それぞれ2人組になってダーズリー家を出るのだ。ムーディは組み合わせを指示する。
ムーディはマンダンガスと、アーサーはフレッドと、ルーピンはジョージと、ビルはフラーと、キングズリーはハーマイオニーと、そしてトンクスはロンと。そしてハグリッドは本物のハリーを、オートバイにとりつけたサイドカーで連れ出すという指示だった。
ハリーがほうきで飛ぶのを得意とすることは、ヴォルデモートもすでに知っているはず。その裏をかいて、ハリーはほうきを使わずに移動するというのだ。
指示が終わると、全員が裏口から庭に出た。

「鍵などかける必要はない。死喰い人が探しにきた場合、鍵で閉め出すことはできん」
ムーディはそう言うが、わたしは「おいおい」と言いたくなった。
確かに、魔法使い相手に鍵は役に立たない。しかしマグルの泥棒や浮浪者が入り込んだら、平和になってから戻ってくるダーズリー一家が困るじゃないか! 
やっぱり鍵はちゃんとかけておいてほしい。ムーディたちにとってここは他人の家なのだから、その所有権は尊重してほしいものだ。 

ムーディの「一、二、三」の合図で、全員が飛び立った。ハグリッドとハリーはオートバイ、ビルとフラー、ハーマイオニーとキングズリーはセストラル、ほかの3組はほうき。
おそらく数キロ離れた場所では、この時刻に合わせて、ダーズリー一家が姿くらましで安全な場所に飛んでいるのだろう。