ハリー・ポッターと死の秘宝(第4章後半)

ハリーはヘドウィグが入っている鳥かごとファイアボルトとリュックサックを手に、オートバイにとりつけたサイドカーの中にいた。乗り心地がとても悪かった。
なぜリュックサックを背中に背負わなかったのか不思議だ。マグルの世界でも、災害にあって避難するときには、リュックを背中に背負って両手を空けておくのが常識なのに。

飛び上がってすぐに、みんなは死喰い人の群れに囲まれた。「少なくとも三十人のフードを被った姿が…」と書かれている。
スネイプがこの日付をヴォルデモートに報告していたせいだが、ムーディたちはそれを知らない。ただムーディとしては、こういうこともあり得ると予想して、「七人のポッター作戦」を考えたのだ。
バイクがひっくり返り、ファイアボルトが落ちた。このファイアボルトはこれっきり登場しない。この巻ではハリーがほうきで飛ぶ場面がほとんどないので、ファイアボルトを失ってもストーリー上は差し支えないのだろう。

ハリーはヘドウィグの鳥かごとリュックのひもをつかみ、かろうじてこの二つを落とさずに済んだ。
しかし次の瞬間、緑の閃光が走ってヘドウィグが籠の底に落ちた。
振り返ると、他の集団から緑の閃光が飛び交っていて、騎士団仲間が狙われているのがわかった。ハリーは引き返したいとハグリッドに叫んだが、ハグリッドは「俺の仕事はおまえさんを無事届けることだ」と答える。この場合、もちろんハグリッドが正しい。ハリーが戻ったりしたら、せっかくの作戦がだいなしだ。ハリーの気持ちもわからないではないが。

ハグリッドはバイクのボタンを押した。排気筒から壁が現れ、死喰い人を阻んだ。さらに追いついてくる死喰い人に対してハグリッドは別のボタンを押し、今度は網が現れた。これらの細工はアーサー・ウィーズリーの魔法によるのだという。最後にはドラゴンの形をした炎が吹き出した。

バイクの振動やスピードで、サイドカーとの継ぎ目が離れ始めた。ハグリッドが「レパロ」の呪文をかけたが逆効果で、サイドカーが落ち始めた。ハリーはウィンガーディアム・レビオーサの呪文で浮かせようとしたが、死喰い人が迫ってきた。ハグリッドの手がハリーをつかみ、ハリーはバイクによじのぼった。サイドカーにコンフィリンゴの呪文をかけ、サイドカーが爆発した。死喰い人が近づくのを防ぐためだった。ヘドウィグのかごは、サイドカーの爆発に巻き込まれた。

死喰い人相手に失神呪文を飛ばしていたとき、死喰い人のひとりのフードがずれ、顔が見えた。ナイトバスの車掌、スタン・ジャンパイクだった。彼の表情から服従の呪文にかけられていると覚ったハリーは、失神呪文は避けて、武装解除呪文を使った。
そのとたん「あいつが本物だ」という声が聞こえ、死喰い人たちが飛び去った。エクスペリアームスを使う者がいたらそれがハリーだと、死喰い人たちは知っていた。
ヴォルデモートは、騎士団がハリーに化けるとまでは知らなくても、ハリーが誰かに化けて逃げ出すことは想定していたのだろう。本物のハリーを見分ける方法のひとつを部下たちに教えたのだ。
ハリーの得意技が何かをヴォルデモートに教えたのはピーターだろうか、スネイプだろうか。どちらもあり得ると思う。

ハリーの額の傷跡が焼けるように痛み、ヴォルデモートの姿が見えた。箒もセストラルもなしに飛べる魔法使いはヴォルデモートとスネイプだけだ。このときもヴォルデモートは空中を飛んできた。
ハグリッドが何をどうしたかわからないが、オートバイが火を吹き、きりもみ状態で落ち始めた。すぐ近くで死の呪文を放つ死喰い人にハグリッドがとびかかり、ふたりはいっしょに落ちていった。ハリーはなんとか、落ちていくバイクにつかまっていた。

ヴォルデモートがハリーにアバダ・ケダブラをかけようとしたとき、ハリーの杖が勝手に動いて、金色の光を出した。バシッという音が聞こえた。あとでわかるが、ヴォルデモートがルシウスから借りた杖が折れた音だ。この現象がなぜ起こったのか、35章のダンブルドアの説明を聞くまでわからない。(わたし個人に限って言えば、ダンブルドアの説明でもなお理解できない)
バイクのボタンが目に入ったハリーは、それを叩いた。炎が吹き出した。
「セルウィン、お前の杖をよこせ」というヴォルデモートの声が聞こえた。すぐそばに、ヴォルデモートの赤い目があった。

ところが、不意にヴォルデモートの姿が消えた。
あとでわかるが、トンクス夫妻がかけた魔法バリアの中に入ったのだ。ハグリッドとハリーは入れるが、それ以外の者は入れないという保護魔法がかかっていた。
下をみると、ハグリッドが地上で伸びている。ハリーはバイクのハンドルを何とか動かして、ハグリッドを避け、池の泥水の中に落ちた。

次の章でテッド・トンクスは「連中は周囲百メートル以内には侵入できない」と言っている。この距離が水平方向にも垂直方向にもあてはまるのなら、ハリーは百メートルの高さから落ちたことになる。いや、防護魔法に入る前からバイクは制御できていなかったのだから、それ以上の高さだ。
オートバイが制御不能になってから、地面に落ちるまでの時間が長過ぎるような気がする。空飛ぶバイクだから、地面には一直線に落ちずにゆっくり落ちるようになっているのだろう。魔法界では、物理学の法則は通用しない。