ハリー・ポッターと死の秘宝(第5章前半)

自分が地面に落ちたことはわかったが、いったん姿を見せたヴォルデモートが消えた理由がわからず、ハリーはとまどっていた。近くにハグリッドが倒れているのが見えたので、ハリーはよろめきながら近づいた。そのとき、「誰かね? 君はハリー・ポッターか?」という男性の声が聞こえた。「テッド、庭に墜落したんだわ」という女性の声もした。そこでハリーは気を失った。

気がつくと屋内で、ソファのクッションの上に寝ていた。そばに見知らぬ男性がいた。それがテッド・トンクスだった。「不死鳥の騎士団」でニンファドーラ・トンクスが「わたしの父はマグル生まれだけれど…」と言っていた、その父親なのだ。「腹の突き出た、明るい色の髪をした男」と描かれているから、小太りの体格なのだろう。
「ほかに折れたところはないかい? 肋骨と歯と腕は治しておいたがね」というせりふは、「秘密の部屋」でマダム・ポンフリーが言っていた「骨折なら、あっという間に治せますが」を思い出させる。テッドの職業はわからないが、ある程度医術の心得があるのだろう。

死喰い人に追跡されたとハリーが話すと、テッドはおどろいた。テッドも、ハリーが移動する日付はヴォルデモート側にばれていないと信じていたのだ。ハリーがヴォルデモートに追われていたと知らないテッドは、オートバイが故障したのかと思っていた。「アーサー・ウィーズリーがまたやりすぎたのかな? なにしろ、マグルの奇妙な仕掛けが好きな男のことだ」というせりふは、アーサーが過去にも問題をおこしていたことを物語っている。マグル生まれのテッドが「マグルの奇妙な仕掛け…」と言うところがおもしろい。

保護呪文が効いていて、周辺百メートル以内には死喰い人が入れないと聞いて、ハリーはやっとヴォルデモートが消えた理由を納得する。
保護魔法というのは便利なものだ。味方は通れるが敵は通れない。しかし、この魔法ではどうやって敵と味方を見分けるのだろう。死喰い人は闇の印を腕につけているが、騎士団にはそういう目印はない。

部屋にハグリッドが入ってきて、ハリーを抱きしめた。「治ったばかりの肋骨がまた折れそうになった」という記述に、原作者のユーモアを感じる。緊迫した場面でも、こういう、ちょっとなごむような表現を挟んでくれるのだ。

しかしこのなごみ気分は一瞬で消え去る。ハグリッドの後ろから入ってきた女性を見て、ハリーは反射的にポケットの杖を探し、おまえ!と叫んだ。ベラトリックスそっくりに見えたのだ。テッドが「わたしの妻だよ、いま君が怒鳴りつけたのは」と言った。よく見ると、髪の色や目の感じが違っていた。「不死鳥の騎士団」で名前だけ出てきたアンドロメダだった。
それにしても、外見がばらばらな三姉妹だ。ベラトリックスは黒髪、アンドロメダは褐色、ナルシッサは金髪。美人だということは共通しているようだが。

ハリーとトンクス夫妻のやりとりは、それぞれの気持ちが読者によく伝わって、けっこう感動する。いつもは自分勝手なハリーも、この場面ではやたら礼儀正しいし、トンクス夫妻の気持ちをちゃんと思いやっている。

ハリーとハグリッドは、予定どおりポートキーでウィーズリー家に移動することになった。
化粧台に置かれたヘアブラシがポートキーだった。青く光り始めたヘアブラシにハリーは指を置いた。ヘドウィグがいないことに気づいたハグリッドは、そのことに気をとられて、危うく乗り遅れるところだった。
数秒後、ふたりはウィーズリー家の裏庭についた。モリーとジニーが駆け寄ってきた。