ハリー・ポッターと死の秘宝(第5章後半)

モリーが呼びかけた。
「ハリー? あなたが本物のハリー? 何があったの? ほかのみんなは?」
このせりふから、ハリーより早く着く予定だった人たちがここへ着いていないことがわかる。ハリーも即座にそれを理解したようだ。
「ほかには誰も戻っていないの?」とハリーは聞いたが、モリーが青ざめていること自体が明瞭な返事だった。ハリーは、移動の日時がヴォルデモート側にばれていて、飛び出してすぐに死喰い人に囲まれたことを説明する。
「あなたが無事で、ほんとうによかった」と、モリーはハリーを抱きしめる。
ハリーが無事でほっとしたのも本心なら、自分の息子たちのことが心配でならならないのも本心だったろう。なにしろ、6人の息子のうち4人までこの作戦に参加していたのだ。

ジニーがウィーズリー家側の状況を説明してくれた。
ロンとトンクスが一番に戻ってくる予定だったが、ポートキーだけが戻ってきた。二番目はアーサーとフレッドの予定だったが、やはりポートキーだけが戻ってきた。ハリーとハグリッドは三番目で、このふたりがようやく予定どおりに着いたというわけだ。
ポートキーには二種類あるが、ここで使われたのは時刻設定型だ。人が触れる触れないにかかわらず、設定した時刻に指定した場所に移動する。もし誰かが触れていれば、その人はポートキーといっしょに瞬間移動できるのだ。

次に現れたのはルーピンとジョージだった。
予定どうりの到着ではあったが、ジョージは血だらけの顔で、気を失っていた。
ハリーはルーピンを手伝ってジョージを室内に運び、ソファに寝かせた。
ルーピンはハリーを乱暴につかまえ、ハリーしか知らないはずの質問をして、ハリーが正しく答えるのを確認した。移動の日時がばれていた以上、ダーズリー家で待っていたハリーが偽物という可能性もあるとルーピンは考えていたのだ。
ヴォルデモートはかなりあとになってハリーに追いついた。もし騎士団の誰かが裏切っているなら、本物がハグリッドと一緒だと知っていたはずだと、ハリーは説明する。ヴォルデモート側が計画の一部だけを知っていたのはなぜか。この謎は33章でやっと解ける。

ハリーがスタン・シャンパイクに使ったエクスペリアームスの呪文に関して、ルーピンとやりあっているとき、ハーマイオニーとキングズリーが戻ってきた。
キングズリーはルーピンに杖を向け、ルーピンがハリーを試したときと同じように質問し、ルーピンが答えた。キングズリーはハリーにも詰問しようとしたが、ルーピンが「本人だ。もう調べた」と言ったのを納得した。

ジョージが耳を失ったこと、それがスネイプのしわざであることを、ルーピンが話す。
「セクタムセンプラの呪いは、昔からあいつの十八番だった」というルーピンのせりふは、この呪文がスネイプだけのものではないことを示している。少なくともルーピンも知っている呪文なのだ。発明したのはスネイプだとしても、決して秘密ではない。

次に戻ってきたのはアーサー・ウィーズリーとフレッドだった。ふたりはジョージの怪我に、当然ながら大きなショックを受けた。
しばらくして、トンクスとロンが戻ってきた。トンクスはベラトリックスにしつこく追われ、なんとか振り切ってリュミエルの家に着いたが、ポートキーの設定時間には間に合わず、ここまでほうきで飛んできたのだ。

キングズリーは、マグルの首相の官邸に戻るために、「隠れ穴」の境界の外へ行き、姿くらましした。
間もなく、セストラルに乗ったビルとフラーが戻ってきた。
ビルは開口一番、「マッド・アイが死んだ」と報告した。

全員が屋内に入り、ビルの主導で、マッド・アイを悼んでファイア・ウィスキーを飲んだ。
ここまでの何人かのせりふを整理すると、ヴォルデモートはまずマッド・アイとマンダンガスの組を追ってきた。しかしマンダンガスは恐怖にかられて姿くらましで逃げ、それを止めようとした一瞬の隙にムーディはヴォルデモートの呪文を浴びてほうきから落ちた。
ヴォルデモートは次にキングズリーとハーマイオニーの組を狙った。しかしそこへ、本物のハリーがハグリッドといっしょにいるという知らせがもたらされ、キングズリー組から飛び去ったのだ。

みんなの会話から、この作戦を提案したのがマンダンガスだということをハリーは知る。
計画の一部だけがもれていた理由は、この時点ではわからずじまいだ。誰かがうっかりもらしたのではというフラーの推測は説得力がある。

マッド・アイの死とジョージの大怪我。ハリーは自分がいることで仲間を危険にさらすことを実感し、ウィーズリー家を出て行こうとするが、みんなに止められる。
耐えきれず外へ出たハリーの傷跡が痛み、ヴォルデモートと同調した。ヴォルデモートはオリバンダーを拷問していた。別の杖を使えばいいというオリバンダーの進言でルシウスの杖を使ったのに、それが折られてしまったことを詰問していたのだ。

我に返ったとき、ロンとハーマイオニーも外へでてきていた。
「ハリー、あの人は魔法省をのっとりつつあるわ! 新聞も、魔法界の半分もよ!あなたの頭の中までそうなっちゃダメ!」
ハーマイオニーの忠告はまったく正しいけれど、ハリーにはその方法がわからない。

この章の、騎士団の仲間が次々に到着する描写や、そのたびにかわされる深刻な会話は、原作者の筆力が存分に発揮されていて味わい深い。それぞれ、この人物ならこう言いそう、という読者の予想どおりに話が展開している。
それから、姿くらましの術が、ほうきで上空を飛びながらでも使えることにちょっと驚いた。