ハリー・ポッターと死の秘宝(第6章前半)

前章で、ビルとルーピンはムーディの遺体を探すために出ていった。
だからこの章では、その結果がまず書かれると思ったのだが、作者はムーディの遺体については何も言わず、単に「マッド・アイを失った衝撃は、それから何日も、家中に重く垂れ込めていた」とだけ書いている。はぐらかされたようでちょっと不快だ。
ただし、8ページほどあとで「遺体を回収できなかった」と書かれている。遺体がどこにあってどうなったのか、結局説明はない。ただ、13章でムーディの義眼が魔法省にあるので、魔法省が何らかの方法で遺体を回収したのだろう。

公式サイト Pottermore によれば、ムーディの死亡日は7月27日。ハリーはこの日に隠れ穴へ移動したことになる。
隠れ穴に着いてからのハリーとロンの会話から、ビルとフラーの結婚式は8月1日だとわかる。結婚式が済んだら、分霊箱探しの旅に出ようとハリーは決心する。
モリーは三人が学校へ戻るつもりがないことを知り、何とか阻止しようとする。

グリモールド・プレイスにかけられた「忠誠の魔法」がどうなるかという、アーサー・ウィーズリーの説明がおもしろい。守人だったダンブルドアの死で、彼から秘密を打ち明けられた全員が守人になっているというのだ。守人が二十人ほどいるので、秘密が漏れる可能性も二十倍だという。
「忠誠の魔法」では、守人から秘密を打ち明けられただけの者は、その秘密を他人にもらすことはできない。「不死鳥の騎士団」で、ムーディがダンブルドア直筆のメモをハリーに見せていたのを思い出した。

ロンの部屋で、ハーマイオニーはたくさんの本を仕分けしていた。分霊箱探しの旅に持っていく本とそうでない本を分けているのだ。彼女は自分の本を全部持参してウィーズリー家に来たらしい。両親を無事に逃がすのに忙しくて、家では仕分けるひまがなかったのだろう。両親の記憶を変えて他人に仕立てるということは、患者たちや友人など関係者の記憶も変え、パスポートも偽物を作らなければならないのだから、映画のように「オブリビエイト」の呪文ひとつだけで済む話ではないのだ。

ハーマイオニーは、ロンとハリーに、両親の記憶を変えたこと、マッド・アイが持っていたポリジュース薬を手に入れたこと、いつでも出発できるように荷造りをしていることを話す。ここでロンがわざとらしい思いやりを見せるのがおもしろい。
ハーマイオニーはかなり激しい表情で『トロールとのとろい旅』を不要本の山にたたきつけた」という記述も、やはりおもしろい。本筋には関係ないが、ロックハートに一時期夢中になったことを、ハーマイオニーは今でもいまいましく思っているのだ。

ロンはロンで、旅に出るしたくをしていた。屋根裏おばけを変身させ、自分のパジャマを着せて、ロンに見せかけるのだ。フレッドとジョージが手伝ったというから、このふたりもハリーたちの計画を知っていることになる。
こうして、ロンは病気でホグワーツに行けないと見せかけ、ハーマイオニーは両親といっしょに遠くへ行ったように見せかける。ふたりはそれなりに、ハリーに同行する覚悟ができているのだ。
しかしロンの覚悟は足りなかったことが、15章でわかる。