ハリー・ポッターと死の秘宝(第7章前半)

7月31日の夜明け。ハリーの夢からこの章が始まる。ヴォルデモートの意識とつながっている夢だ。ハリーはこのような夢を過去にも何度か見ている。
今回、ヴォルデモートは山道を歩いている。ある男に会いに行くところだ。その男が、ヴォルデモートが求めている答を持っている。
この時、ハリーは自分では知らずに「グレゴロビッチ」という名前をつぶやいていた。ハリーは目が覚めてから、ロンからそのことを聞く。どこかで聞いた名前だとは思うが、思い出せない。実は「炎のゴブレット」の「杖調べ」の場面で、クラムの杖を調べたオリバンダーが「グレゴロビッチの作と見た」と言っていたのだ。たった一度聞いた名前を、よくも覚えていたものだ。人生でいちばん記憶力が良い年齢ではあるけれど。

この夢の続きは、このあと飛び飛びに現れる。
7月31日の夢では、「夜明けのひんやりした青い光の中…」と書かれている。
数日後、9章のラスト近くで、ヴォルデモートがロウルを拷問している幻を見る。さらにそのあと、12章なかばになってから、ヴォルデモートはグレゴロビッチの家を探し当てるが、本人には会えない。ここでは「夕暮れの街を…」と書かれている。そして、グレゴロビッチに会うのは14章だ。魔法省から逃げ出して、野宿を始めた時期だ。
グレゴロビッチはカルカロフと立場は違うが、カルカロフ同様にヴォルデモートの追跡を意識して逃げ回っていたのだろうか?

話は戻って、今日ハリーは17歳になった。
どこにいても魔法を使える。台所に降りると、プレゼントの山があった。
モリーからのプレゼントは時計だった。「弟のフェービアンの物だったのよ」というせりふから、その弟が若くして故人となっていることがわかる。しかし、「不死鳥の騎士団」でムーディから聞いたプルウェット兄弟の名が、このフェービアンと結びつくのは「十九年後」の章になってからだ。

この巻は全体に暗いし、ビルとフラーにとっては一生に一度しかない結婚式でさえも無事に終わらない。
しかし、誕生日プレゼントのひとつひとつの描写はとても楽しい。「賢者の石」時代のワクワク感が、一瞬だけだが戻ってきた気がする。

ハリーはジニーに呼ばれてジニーの部屋に入り、ふたりはキスを交わす。
ここでジニーが「私、そういう希望の光を求めていたわ」というせりふの意味がよくわからない。その前のハリーのせりふ(他の女性とデートするチャンスは少ない)とつながらないのだ。もしかするとこの訳者お得意の(?)誤訳かと思ったが、そうでもないようだ。

夜になり、モリーはハリーの誕生日祝いの準備を始めた。スニッチの形をしたバースデーケーキを作ってくれたのだ。
フレッドとジョージは家から少し離れた小道で招待客を迎えた。ハグリッド、ルーピン、トンクス。
トンクスが上機嫌なのに、ルーピンが浮かぬ顔をしている理由は11章でわかる。
ここで、チャーリーとハグリッドが出会う。「炎のゴブレット」以来の再会だろう。「賢者の石」でハグリッドが孵したドラゴンのその後がここでわかる。雌の方が獰猛だというのがおもしろい。

そこへイタチの守護霊が現れ、アーサーの声で「魔法大臣がいっしょに行く」と告げる。
ルーピンはトンクスといっしょに、垣根の外へ出て姿を消す。

[追記 2018.12.26]
この章でモリーが口にした「弟のフェービアン」だが、「不死鳥の騎士団」9章でムーディがギデオン・プルエットとその弟のフェービアンの名を出して以来、出てこなかったと思っていた。
しかしあとになって、「不死鳥の騎士団」25章にも名前があることに気づいた。死喰い人10人が脱獄したという新聞記事の中のドロホフの説明に「ギデオンならびにファビアン・プルエットを惨殺した罪」と書かれている。
フェービアンだったりファビアンだったり訳語が一定しないが、同一人物であることはまちがいない。
そしてこの章でモリーが「弟のフェービアン」と言ったのだから、「不死鳥の騎士団」の記述のどちらに照らしても、プルエット兄弟がモリーの身内だということはここでわかる。
ただわたしは、「十九年後」の章でやっと気づいた。