ハリー・ポッターと死の秘宝(第7章後半)

アーサーといっしょに入ってきた魔法大臣スクリムジョールは、前に会ったときより頬がこけ、厳しい表情になっていた。就任から一年、いろいろ苦労があったのだろう。
しかし、このあとの話を読むと、彼に同情しかけた気持ちがふっとんでしまう。

スクリムジョールは、ダンブルドアの遺言と、遺言によってハリーたち三人に残された遺品を持ってきたのだ。
彼が「三人とそれぞれ個別に話したい」と言った意図は何なのだろうか。ダンブルドアが誰にどれを何のために残したのか、別々に問いつめればわかると思ったのだろうか。
ハリーは個別の尋問を拒否し、三人いっしょでないと話を聞かないと言った。

このときのハリーやハーマイオニーとスクリムジョールとのやりとりで、魔法界の相続財産に関するルールの一部がわかる。
魔法省には遺言書に記された遺品を押収する権利がある。ただしそれは、闇の魔術に使う品物が相続させるのを防ぐためだ。そして、魔法省がそれを保管する期限は31日。危険だと立証できなければこの期日以内に返却しなければいけない。
スクリムジョールは31日間、ダンブルドアの遺品を手元に置いて調べていたのだ。

ダンブルドアの遺品のうち、書籍や計器類はほとんどホグワーツ校に遺贈された。しかし数点だけが、ハリーとハーマイオニーとロンに遺された。確かに、スクリムジョールでなくても奇妙に思うはずだ。ハリーが特別な少年であることは周知の事実だが、ハーマイオニーとロンはそうじゃない。
スクリムジョールはいきなりロンに向かって「君はダンブルドアと親しかったと言えるかね?」と質問する。とっさにうまい返事をできるロンではない。ハーマイオニーがフォローする。

スクリムジョールは遺言状の中の、ロンに関する部分を読み上げる。ここで読者にロンのフルネームがわかる。ダンブルドアのフルネームも書かれているが、これは「不死鳥の騎士団」の尋問の場面で読者に知らされていた。
ロンに遺されたのは、「賢者の石」の第一章にすでに登場している灯消しライターだった。ダンブルドア自身が設計したものだと、スクリムジョールが言う。このライターの本当の機能がわかるのは、20章になってからだ。

ハーマイオニーには本が遺贈された。ハーマイオニーのフルネームも、ここでわかる。正式の遺言書にはフルネームを書くものらしい。
ハリーへの遺品は、ハリーが初めてクィディッチの試合で取ったときのスニッチだった。ここで読者は初めて、試合のときに使うスニッチは新品が使われるということを知る。誰がいちばんに触れたかわかるようになっているというのだ。
そう言えば、確かに、クィディッチの試合場面で、試合開始のときに審判は箱をあけるだけで、スニッチには触っていなかった。

スニッチは小さい物を隠すのに格好の場所だ、とスクリムジョールが言う。すると、スニッチは中空の構造なのだろう。「肉の記憶」を持つスニッチにダンブルドアが何かを隠して、ハリーが触れると開くようにになっているのではないか。それがスクリムジョールの推測だった。
ハリーも同じことを考えたが、スクリムジョールが凝視しているので、しかたなく手でスニッチを受け取る。しかし何もおこらなかった。あとでハリーは、自分がこのスニッチを口で捕らえたことを思い出す。

もうひとつ、ダンブルドアがハリーに遺したものがあるという。グリフィンドールの剣だ。
この剣に関してのハリーとスクリムジョールのやりとりは、どっちもどっちという気がする。スクリムジョールの言い方も理不尽だが、ハリーの言い方も生意気すぎると思う。
ハリーのせりふの中で「ヴォルデモートが州を三つまたいで追跡してきた」というのに興味をひかれた。ウィーズリー家は Pottermore によると、デヴォン州にあるという。ダーズリー家のあるサレー州からハリーはまずトンクス家に行き、そこからウィーズリー家に移るが、トンクス家はどこにあるのだろう。

結局、グリフィンドールの剣は個人が所有することはできないという判断で、スクリムジョールはここへ持ってさえこなかった。
ダンブルドアはそれがわかっていたはずなのに、なぜ遺言書に書いたのか。剣が分霊箱を破壊するのに必要ということをハリーに知らせるためだったと思われるが、具体的には書けなかったのだ。

スクリムジョールが引き上げてから、ハリーの誕生祝いの食事が始まった。
ダンブルドアの遺品がみんなに回されたが、その意味を推し量れる者はいなかった。

就寝時間になり、ロンとハリーが部屋にいると、ハーマイオニーが入ってきた。
ハリーは、スニッチにくちびるをあてた。すると「わたしは終わるときに開く」という文字が浮かび上がった。反応はあったが、意味はやはりわからない。
ハーマイオニーが受け取った本については、ロンがよく知っていたが、ハーマイオニーとハリーは初耳だった。こういう描写からも、魔法使いとマグルの文化がまったく違うことがわかる。
しかし、ホグワーツの図書館には、童話の本は皆無なのだろうか。